恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

わ、輪の束縛


「マスター、お茶が――」
マリアージュがフォレスターの研究室へ入ると、彼は大量の資料に埋もれた机の上で居眠りをしていた。
彼を起こさないよう、そっと近づき、部屋に常備してある毛布を掛けた。
「風邪なんてひいたら大変ですからね」
小声で呟いて、彼女は部屋を後にした。


レイジたちに手伝ってもらい、どうにかフォレスターのお気に入りのマグカップを見つけた。
そのお礼も兼ねてマリアージュは現在の住処である研究所へレイジたちを案内した。
「……全く、お前の姉は統治者として問題が多すぎる」
そう愚痴をこぼしながらも、フォレスターはレイジたちに協力することにした。
あくまでマリアージュを戦闘用として貸し出す程度だが、これが彼なりの協力の仕方だったので、レイジたちにも特に文句はなかった。
その頃から彼が怪し研究をし始めたことに気づいたのはマリアージュだけだった。
何か良くない研究かもしれないとは思ったものの、具体的に何がどう悪いのか理解できない彼女にはフォレスターに進言する事は叶わない。
彼女に出来るのは主人であるフォレスターに災難が降りかからないよう祈る事のみ。
「マスター、お茶を淹れました!」
深夜までその研究は続いた。
マリアージュはオートマタ―のため、睡眠をとる必要はなかったので、よくフォレスターの手伝いをした。
手伝いとは名ばかりのただのお茶くみレベルのことしか出来なかったけれど。
「ああ、そこにおいておけ」
フォレスターは難しそうな文献や資料を漁ってばかりで、マリアージュのなど見向きもしなかった。
それは寂しかったが、所詮オートマターの自分相手ではこの程度だろうと自分を納得させた。


ある雨の日の事だった。
「マリアージュ、私の研究室に来い」
レイジたちと楽しくおしゃべりしていた彼女は、彼らに断わってから研究室へと急いだ。
そこにはいつの間に準備したのか、大掛かりな装置が置いてあった。
「あの……これは?」
マリアージュがキョトンとしながら問いかけると、フォレスターは得意げに言った。
「今日はお前の機能を拡張しようと思ってな。……ただ感情が乗っているだけではつまらん」
「機能……拡張、ですか?」
彼女自身は今のままで十分だったが、フォレスターには物足りなかったのだろう。
今のままで十分ですと言いかけた。
だが、マリアージュはフォレスターが開発したオートマタ―だ。
たかが機械が主人に反抗など出来るはずもない。
「そこに座れ。私の理論では今以上に優れた完成品になる」
「はい」
どこをどう弄るのかなどマリアージュには解らないが、魔界随一の頭脳の持ち主である彼の考えならば素晴らしいものに違いない。
処置は数分で済んだ。
「終わりだ」
「もうですか?流石はマスターですね!どんな機能をつけたんですか?」
フォレスターは意味深に笑うと、今に解るとだけ言った。


アンジェラという人間の少女を攫えと命じられた時にはどうすればいいのか大いに悩んだ。
彼女を攫うという事はあのスクィーズの力を持つパージュを敵に回すという事だ。
「いいから攫ってこい。あんな女など取るに足りん」
フォレスターはそう強気な発言をしたが、母性ある女は強かった。
「……アンジェラを攫った罪、償ってもらうよ!」
パージュが魔力を全開放し、フォレスターに向けて放った。
戦闘用のオートマタ―であるマリアージュにはその動きはゆっくりとしたものに見えた。
――マスターが言っていた機能拡張ってこういう事だったんだ!
マリアージュは主を庇って死ねることを本望だと思った。
あの冷血漢、フォレスターが自分に向って何かを言っている。
しかしその言葉も遠くなっていく。
――ああ、死ぬってこういう事なんだ……。
不思議と自分がこの世から消えることを惜しいとは思わなかった。


「どうして教えてくれなかったんだ!?」
やけに耳障りな大声が聞こえた。
その声は間違いなくレイジのモノだった。
マリアージュにはその声がやけにはっきりと聞こえた。
目も開けてみる。
するとそこではなぜかフォレスターが倒れていて、ジーナローズに詰め寄るレイジの姿と、それを止めようとするヴィディアの姿があった。
「……あれ、わたし、死んだはずじゃ……?」
耳も目も問題ない。
多少の『痛い』という感覚はあるが、ボロボロの身体ながら、それほど辛くはない。
起き上がるとユーニと目があった。
「あ、レイジ見てよ!あのオートマタ―、まだ生きてる!」
レイジは耳を貸さないが、ギルヴァイスは驚いている。
「確かにパージュ様渾身の一撃を食らったはずなのに……どうなってるんだ?」
「ね、おかしいよねー!」
ユーニとギルヴァイスがマリアージュの方に寄ってくる。
「ああ、このせいか」
ギルヴァイスは壊れたマリアージュの身体からはみ出したチップを見た。
恐る恐るマリアージュが尋ねる。
「それは?」
「オートマターのボディ教科用のパーツだろう。以前研究の手伝いをした時には開発段階だったっけ」
ボディ強化、そんな事のために彼は夜を徹して研究をしていたというのか。
それだけマリアージュを特別扱いしていたというのか。
マリアージュは泣きたかったが、生憎オートマターの身では涙を流す事など叶わない。
ギルヴァイスが気の毒そうに言う。
「お前はオートマターだ。永久的に生き続けるしかない」
「マスターのいない世界でですか?」
「そうだ」
その言葉ほど彼女を絶望させるものはなかった。
マリアージュは輪の束縛に嵌ってしまったのだった。


フォレスターを殺した大天使長メルディエズを仇として、レイジたちと共に戦ったマリアージュのその後は、魔界中の誰も知ることがなかった。



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2015年 6月27日 莊野りず

どうしてもフォレスターとマリアージュの話はバッドエンドになってしまう……。
というか、原作においてこの二人の出番が少なすぎると思います。
今回はフォレスターではなく、マリアージュが生き残る話にしてみました。
たまにはこんな解釈もありじゃないでしょうか。




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