『殿方が自分のために苦心した送りものは格別ですわ』――リプサリスは確かにそう言った。
グリシナの美しい顔に傷をつけたカインは許しがたい。
「カインの首、それがグリシナが最も喜ぶもの……」
レッドムフロンはカインの動向を探るようになった。


【獣のように】


教団の情報網に引っかかったのは、カインがヴェローナの街にいるという事のみ。
しかし虱潰しに当たればいつかはカインにたどり着くだろう。
レッドムフロンはそう決めつけた。
教団を襲撃したのだから表立っての場所にはいないはずだ。
そう考えた彼は裏路地から探す事にした。
……結果的にそれは正解だった。
カインがいたのだ、二人も。
「なんだと……カインが、二人!?」
もちろん同じ人間が二人いるはずもない。
人間の間では同じ顔の人間が世界には三人いるという話は彼の知るところではない。
グリシナから特徴は聞いていたものの、目の前の二人の少年はどちらもその特徴に当てはまる。
二人の少年は何やら言い合っていたようだったが、片方は表通りに、もう片方は裏路地に留まったままだ。
――教団にマークされているカインが表へ行くはずがない。
そう考えた彼は裏路地の少年の元に近づいた。


アベルはその気配に気づいていた。
鈍いカインは自分の問いに答えるだけで精一杯で気づいていなかった。
「……何の用だよ、オッサン」
アベルはレッドムフロンを睨みつける。
グリシナの話からもっと内気な少年だと予想していたが、流石教団に立てつくだけあって強気だ。
「カインだな?お前の首をもらいに来た!」
アベルは訂正するのも馬鹿馬鹿しかった。
それに最近は血を見ていないし、ここいらで戦うのも悪くはない。
「お前にオレが倒せるかな?かかって来いよ!」
アベルは大剣を構えた。
レッドムフロンも舐められっぱなしで、グリシナにカインの首一つ持ち帰れないのでは馬鹿にされる。
彼も臨戦態勢をとった。


「それで、このザマですか」
グリシナは呆れかえった。
自分の上司がこれほど弱いとは、副官としては情けない。
もっとも、グリシナはカインだと思った少年が全く違う少年だったとは知らない。
グリシナに丁寧に傷薬を塗ってもらいながら、少年のように落ち込むレッド・ムフロン。
「全く貴方という人は。どうせリプサリスあたりに騙されたんでしょう。大体想像はつきますよ」
ネチネチと毒舌が続く。
「……それでも、気持ちだけは受け取っておきますよ。獣のような愛情表現しか出来ない貴方は、他でもないこの私の上官なのだから」
これはグリシナなりの照れ隠し……と受け取ったレッドムフロンは顔を少年のように輝かせた。
グリシナの素直ではない感謝の気持ちに、彼は満足するのだった。







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2014年 12月15日 莊野りず

『獣のように』というお題を見
て、ヤンデレ全開のレイジナもいいかなーとは思ったんですが、獣といえばレッドムフロンのイメージが強かったです。
グリシナは男でも女でもないから一々グリシナって打ち込むのが地味に面倒というか、テンポが悪くなるというか……。
美女と野獣コンビですよね、この二人。



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