恋愛50音のお題 男女カプオンリーで攻略中

ほ、炎


 
「リィディエール様を火刑に処す!」
苦戦している悪魔との戦いの人身御供として選ばれたのは、神の御子であるリィディエールだった。
彼女は態度こそ毅然としていたが、内心では怖くて仕方がなかった。
――いやだ、こわい。
叫びたかった。


ギルヴァイスの部下の二人は諜報活動から帰ってきた。
ディールとフィリス、この二人はギルヴァイスが一から育てた彼の腹心の部下。
戦闘ではイマイチだが、情報収集能力は折り紙付きだ。
その彼女らがもたらした情報は驚くべきものだった。
「……リィディエールが火刑に処されるらしい」
ギルヴァイスは機械的にレイジに告げた。
彼は彼女についてはジーナローズ殺しの一員であるという事で、悪い感情しか持っていない。
「あたしたちには関係ないわ。ね、レイジ」
ヴィディアもギルヴァイスと同じく、いやそれ以上にリィディエールを嫌っていた。
ジーナローズ殺しの疑いどころかレイジの心を惑わすところが気に入らない。
しかしレイジは彼女の優しい一面を知ってしまった。
少しでも知ってしまった相手には冷たくできない。
それは復活後の彼の長所であり短所でもあった。
「……同族に殺させるわけにはいかない。リディエールを助けに行く」
「ちょっと!あんなジーナローズ様に似てるだけの女なんて助ける必要ないわよ!」
ヴィディアは止めるが、レイジの決意は固いらしい。
それは誰よりもそばにいるから解る。
ギルヴァイスはヴィディアを宥め、一緒に行くと決断した。


「よし、ロープだ」
十字に組んだ太い木に縛られながら、リィディエールはレイジという悪魔の事を思い出していた。
人間を庇ってくれたり、自分のいう事を認めてくれたり、とてもじゃないが邪悪な悪魔とは思えなかった。
いや、レイジだけではない。
彼の仲間もリディエールが想像していたような残虐な生き物ではなかった。
もしかしたら自分たちはとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
――いけない、こんな事を考えていたら天使様の元へなど到底行けない。
縛られ、十字に組まれた大木ごと火を放たれた。
その場には天使の姿もちらちら見受けられる。
「天使様、私の迷いを断ち切ってください」
蚊の鳴くような声だった。
そこへレイジの叫びが響いた。
「リィディエール!無事か!」
幻聴かとも思ったが、こんな大音量ではっきりした声は幻聴でも何でもない。
顔を上げると彼の仲間たちが総出で助けに来ていた。
「ああ」
炎の熱に耐えながら、何とか返事をする。
それを聞いて安心したのか、レイジたちは勢いづいて天使を含む人間たちを蹴散らした。


数か所のやけどはあるが、命に別状はなかった。
「よかった……。心配したぞ?魔王城奪還の時に様子が変だったから」
レイジが優しく語り掛ける。
「……こわかった」
リディエールは目元に涙を溜めて呟いた。
「そりゃ怖かっただろうな。生きたまま火あぶりなんて……」
「違うんだ。昔、私は父と母と共に家事に遭ったんだ……。二人ともその時に死んでしまった。それ以来、火を見るのも……こわい」
泣きつくリディエールをレイジは優しく抱きしめる。
「もう大丈夫だ。俺がそばにいる。他の奴らだって。だからそんなに怯えるな」
レイジがどんなに宥めても、リィディエールはしばらく泣き止まなかった。
流石にヴィディアも彼女からレイジを奪おうとはしなかった。
その後、悪魔軍に人間の少女が加わったという噂が魔界全土に流れた。

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2015年 2月23日 莊野りず

当サイトでは最も珍しい、レイリィです。崇拝のカタチ戦でリィも処刑されるパターンはあっさりしすぎてて、ポカーンとなりました。
その辺補完してみました。リィもツンデレでしょうね。
もちろん炎のトラウマは捏造です。



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