ペスカ・コシカは容赦のない暴力的な集団。
Bl@sterに参加する連中――主にチーム――はみんなそう思っている。
ヘッド、通称コートがどんな人物かも知らずに。


【雄猫】


カズイがたまり場から離れて、星の見えるビルの上に行くと、大概そこにはリンが先客としていた。
宇宙飛行士になりたいほど星が好きなカズイよりも先にこのビルを見つけられたのは、少しを悔しい。
「カズイ、遅かったな。アイツらボコっちゃって、その後始末でもしてたのか?大変だな、カズイも」
主にリンが引き起こした事態なのにリンはあくまで他人事だ。
このトラブルメイカーはたった一言で機嫌も崩すし、とにかく扱いが難しい。
「……コート様があんなことをしなければ俺の仕事も減るのだがな」
恨みを買うことの多いペスカ・コシカはたまり場を定期的に移動している。
正直なところ、リンにはそんな必要がないと思う。
なんといってもペスカ・コシカは最強・最恐・最凶という狂ったチームだ。
誰も関わり合いたくないだろう。
「リン、こんなところでする話じゃないだろ?ここは神聖な場所だ」
カズイにとって、夜の空に輝く星を眺められるスポットは聖域だ。
その事を他の誰よりもよく知っているリンは、すぐにカズイの言いたい事を見抜いた。
「じゃあ、いつものクラブにでも行くか」
二人はさっそく場所を変えることにした。


行きつけのクラブで、リンはカクテルを三杯飲むと急に甘えた声を出した。
「なぁ、カズイ。なんか俺、飲み過ぎたみたいだ」
リンはあまり酒に強くないくせに、酒を水のように飲む。
こんな風に、酒の飲み方を全く知らない奴も珍しい。
相当のボンボンか、酒も飲めないほど金に困っていた家庭の出身なのか。
カズイは勘で前者だと思っている。
彼のリンの事に対する勘は大抵当たる事が多い。
ふと店を見渡してみると、以前は見かけなかった若者が我が物顔で闊歩しているのが目に入った。
ここいら一帯はペスカ・コシカのシマだ。
余所者が好き勝手するのを見過ごせない。
注意しようと席を立ったが、リンが服の袖をつかんだまま眠っている。
「ああ、もう!リンに酒を飲ませたのは誰だ!」
ナンバー2のカズイはリンの保護者のようなもの。
反抗期まっしぐらのリンを守ってやれるのはカズイだけだ。
ここはペスカ・コシカの馴染の店との評判もあって、ほかのチームの連中も来ることがある。
身の程知らずの彼らは言いたい放題言ってくれる。
「おい、いいのかよ?あの二人ってナンバー1とナンバー2だろ?まさかペスカ・コシカがただのガキの遊びの延長だったな――」
若者が軽口からペスカ・コシカを貶める発言をしようとする時だった。
マスターの使っていたマドラーが彼らの頬をかすめる。
「……言葉に気を着けろよ。早死にしたくなきゃあな!」
クラブのマスターが釘を刺す。
このマスターは、寂れていたARIA:Gorstに新たな伝説を作り続けるリン達が眩しくて、未成年への酒や煙草の提供も行っている。
「コートさんよ、新しいカクテルを開発したんだが、飲むか?」
「飲む飲む!マスターのそういう適当なとこ、結構好きだ」
マスターはスキンヘッドの似合う強面。
とてもリンとは合わないように見える。
しかしそれもどこか身内のノリが見え始めて、カズイは内心焦った。


元々暴力は嫌いだった。
いくら強い相手がいるからといってそのたびに戦いを挑んでは最後には体がボロボロになる。
だからカズイは十分強いのにBl@ster以外では拳を振るわないのだ。
これはカズイが自身にかけた枷だ。
大切なヘッドに何かあればすぐに切れる枷。
マスターに出された、苦いでウィスキーを舐めていると、リンが目の前にいた。
リンの目はすわり、眼から殺気が出ている。
表情を見るに……怒っている?
一体なぜ?
カズイは何もしていないというのに。
「リン、そんなところに突っ立ってないで座れよ。隣、空いてるから」
「……」
リンは無言でカズイの隣に腰を下ろす。
「……大丈夫か?また傷なんて作ってきて、ここのマスターは世話焼きだから、うっとおしい思いはするだろうな」
「アイツ、俺のカズイに手を付けようとしてた」
それから数秒待っても、リンの次の言葉がない。
そもそも、『俺のカズイ』とはどういう意味があるのか。
注文した品をバックヤードから運んできたマスターは嬉しそうにカズイに微笑みかける。
だが、カズイにそっち系の趣味はない。
あったとしても仲間のした事の尻拭いで一杯一杯だ。
「はい、リンの分。甘いの好きだったっけ?お前は可愛い顔をしてるんだから、うちで働きけばいいんだ」
「……マスター、チェンジ。カズイが飲んでるやつ頂戴」
リンは普段弱いカクテルにしか手を出さない。
これは止めるべきだ。
カズイはそう思ったが、周りにいるのは優勝で浮かれている連中ばかり。
「ああ、もう!」
これからどうなろうとも自分には関係ない。
カズイはやけになった心地でグラスの中のウイスキーを飲んだ。
久しぶりに飲むウイスキーは喉が焼けるかと思った。


たまり場には二部屋の寝室が用意されている。
勿論使うのはリンとカズイだ。
トモユキはリンを呼んで何事かを耳に吹き込んだ。
っ次の瞬間にはリンがトモユキの首元を締め上げていた。
「やめろ、リン!」
カズイが言葉を発するまでは全くそのそぶりを見せなかったが、身体は正直とはよく言ったもので、リンの顔が真っ赤になっていた。
「……トモユキ?お前、リンに何を言ったんだ?」
出来る限り優しく訊いたつもりだが、トモユキはそっぽを向いた。
今度はリンの方に向き直ってみた。
「リン、トモユキに何を言われたんだ?」
「……ッツ!何でもねえよ!」
可愛いとよく言われているから、それに対して怒りを覚えていたのかもしれない。
カズイは今夜リンの部屋へ行く事にした。


部屋に入ると、リンはもうすでに眠っていた。
パジャマなどというものは身に着けず、下着だけつけて寝ている。
真冬の事とは思えない。
布団が捲れていて、リンの細い足首が露わになっている。
――ごくり。
カズイの喉が鳴った。
いつも隣にいる時は男らしい言葉遣いをするリンが、これほど細いとは。
思わず布団を引きはがしてしまう。
「ぅ……?」
リンは起きない。
安らかな寝顔が子供らしい。
カズイはしばらくその状況でリンの肢体を鑑賞した。
――おかしい。なぜ俺はこんなにもリンの寝姿に興奮してるんだ?
カズイの理性のスイッチはもう外れそうだ。
そんな途端、リンが半目を開けた。
「あれ、そこにいるの、カズイ?何してんだ?こっちで一緒に寝ようぜ」
この言葉がカズイの理性を崩させた。
「……本当にいいのか?」
「いいに決まってる」


カズイは上着を脱いだ。
程よく鍛えられた筋肉に、リンは寝ぼけ眼で嬉しそうに顔を寄せる。
リンは黒のボクサーパンツしか身に着けていない。
その真ん中あたりが勃ち上がっている。
カズイはその事に驚きを隠せない。
暴力的な集団、ペスカ・コシカの頭がこんなに男同士のセックスに興味があるとは思わなかった。
リンの酔いはまだ残っていて、ボクサーパンツも脱ぎだした。
「リン、それはさすがに――」
生まれたままの姿になったリンは嬉しそうに笑う。
「なんだ。ノンケかと思ってたけど、カズイだって勃つじゃん!」
「?!」
実際カズイのものも勃っていた。
リンは全てのものを身体から排除していた。
「……俺を満足させてみろよ」
明らかな挑発にあっさり乗ってしまう自分が情けない。
おそらくリンは今日の事を覚えていないだろう。
リンが今日の事を覚えていてくれたらどれだけいいだろうか。
もしかすると、カッとなって怒り出すかもしれない。
――そうだ。俺はリンを抱いてみたいと思っていた。


「俺を抱きたい?入れたい?」
リンは明らかにい劣情を煽っている。
経験はそれなりにあるも、男同士の仕方など解らない。
そう伝えると、リンはカズイのパンツのファスナーを下ろした。
「ちょっと、いきなり何を――」
カチャカチャとベルトを外す音が聞こえる。
ファスナーを下ろすだけでは足りないのだろう。
露わになったものを、リンは一心不乱に舐め始めた。
舌を器用に使って、イキそうでイケない所を弄んだ。。
「リン。もう無理だ。出る」
カズイの宣言通り、リンの口内を精液が犯した。
「ふぁっ!」
リンは盛大にむせながらも、全ての雫を舐めとろうとする。
口で受け止めきれずに、頬にもかかる、。
頬にかかったものも指で掬って舐めとる。
それが妙に扇情的で、カズイは頭に熱が上った。
――駄目だ、これ以上は……
しかしリンは解放してくれそうもない。
上気した顔で妖しく笑う。
「じゃあ、そろそろ本番な」」
何の事でもないように言うが、入れられる側が肉体的につらいものだというくらいの知識はあった。
「待ってくれ!俺はお前につらい思いをさせたくない」
「……何言ってんだよ。お楽しみはこれからだろ?俺のこんな姿とかとかあんな声とかできっと満足させてやるから」
そう言うと、リンは指を二本、口の中に入れた。
「?」
カズイには何をしているのか解らない。
リンは自分の右手の指を唾液で絡めた。
一体何をしようとしているのか、それはなんとなくカズイにも解った。
「あぁぁぁぁっ!」
後ろの穴に一気に二本も指を入れたからだろう、リンの苦痛の声が嬌声に聞こえる。
リンの身体が不安定にふらふらしていて見ていられない。
「リン、もういいから!俺はこれで十分だから」
カズイは先程の嬌声で感じ始めている事を隠したかった。
「駄目だ。俺がコート、お前がナンバー2.ナンバー2ならこのくらいの事もこなせるようになれよ」
そう言いながら、カズイの身体に乗り、自分から差し込むつもりだ。
「カズイ、また勃ってる。そんなに俺の声、そそった?」
再び馬なりになったリンは一気にカズイの雄を受け入れた。
「か、ずい。全部入った……気持ちいい?」
その瞬間、カズイはこれまでで一度も出会った事のない快感と出会った。
「ああ、凄く気持ちいい。身体は辛くないのか?」
「俺も気持ちよすぎて死にそう。よっぽど相性いいんだな。ほら、動くから!」
女性との経験はあったが、男とのセックスは初めてだ。
予想以上に気持ちがよかった。
その余韻に浸っていようとリンのな怪しい身体を鑑賞しようと思ったが、そのリンは体位を変えてさらに気持ちよくなるためにカズイに色々と意地悪をした。
「あぁぁ……」
一晩で一帯何度射精しただろう。
楽なポジションのカズイでさえクタクタなのだから、さぞリンも疲れているはずだ。
しかしリンは疲れを全く見せず、行為を終えるとすぐにベッドに潜り込んだ。
「おやすみ」
先程までの長い雄猫の甘えタイムは終わったのだろう。
今度のリンはちゃんとパジャマを着ていた。


翌日はカズイがリンを意識しすぎて失敗の連続だった。
クリーニングに出した揃いの服が手入れ方法を間違えて縮ませてしまったり、用意するはずだった酒が手には入れなかったり。
昨日からカズイはリンの雄猫らしさをいかんなく堪能した。
あんなに大胆で、男前で、格好いいなんて思わなかった。
そんな時、隣の部屋の鍵が開いた。
「あれ、カズイじゃん。おはよ」
他意のないリンの挨拶でも昨日の事が思い出されてやるせなくなる。
「お……おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「ああ。久々にぐっすり。カズイは?」
「俺は昨日のリンが信じられなかったな。やっぱりリンは誰よりも男だよ」
カズイが昨日のリンの態度を思い出していると、リンが奇妙な事を言った。
「はあ?何言ってんだよお前。俺は久しぶりにトモユキが絡んでこないから気楽に寝てただけだっつーの」
カズイはこの時、ある事を考えた。
……もしかしなくても、リンは昨日の夜の事を覚えていないんじゃないのか?
そういえば、クラブでも調子に乗って色々なカクテルを飲んでいた。
「……忘れられてる?」
それが事実のようだ。


ペスカ・コシカのヘッドは通称コート。
コートの意味は雄猫。
雄猫は甘えん坊だと言われている。
コートことリンも甘えん坊なのか?
「……全く。リンには敵わないな」
たまり場の広場に走り出すリンの後姿を見ながら、カズイは小さく呟いた。








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2014年 2月1日 莊野りず

カズリンでエロ、最初に考えた時には「無理無理」と思ったんですが、リンが憶えていなくてカズイだけが憶えていたらどうなるだろうと。
それならカズイに告白していなくとも身体の関係があってもいいんじゃないかと思って書いてみました。
リンはきっと素だと、カズイは聖域過ぎていつものアピールが出来ないんだと思います。



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