ジーナローズはこの日を楽しみにしていた。
ハロウィン、彼女が愛する人間の祭りだ。


【ジーナローズ様のハロウィン】


「いいかい、ジーナローズ様の城に着いたら『トリック・オア・トリート』って言うんだよ」
パージュは目の前の少女に言い聞かせた。
魔王であるジーナローズは人間を愛している事で有名だ。
アンジェラにも期待がかかる。
しかしアンジェラはあまりにものを喋らない。
不安になるのも当然だ。
それ以上にパージュの気持ちを落ち着かないものにしている原因が他にもある。
それは魔王の弟のレイジだった。
彼はカルテットのまとめ役としては優れているが、その他の事は参謀であるギルヴァイスに丸投げしている。
アンジェラを魔王城へ行かせたくないが、ジーナローズが人間と会いたいと願うなら、断る術はなかった。
不安なパージュはアンジェラに付き添う事にした。
「すみません、パージュです。この門を開けてくださいませんか?」
魔王城の門は誰も通さないよう封鎖されている。
「どうぞ」
侍従たちがパージュを向かい入れた。
パージュは堂々と玄関先を抜けた。
「お、アンジェラか。人間の祭りだよな、ハロウィンって」
レイジがジーナローズの代わりに面会に来た。
パージュの記憶にあるレイジとはまるで違う。
人間の文化を受け入れたレイジが、そこにはあった。
メルディエズを倒したためか余裕が感じられる。
パージュはほっとして、通された部屋のソファに腰を下ろした。
そこにジーナローズがやってきた。
彼女の後ろに控える侍女が暖かいお茶とお菓子を持ってきた。
「まあ、久しぶりねアンジェラ」
ジーナローズは微笑んでアンジェラの頭を撫でた。
アンジェラもそれに応えるように微笑む。
「……」
アンジェラは小さな手を出した。
そして小首をかしげる。
「そうね、今日はハロウィンだものね。はいアンジェラ」
ジーナローズは焼き立てで美味しそうなパイをアンジェラに渡す。
ミニサイズで可愛らしい。
「今日はゆっくりしていくといいわ。そうだわ、お泊りなんてどうかしら?」
「姉さん、パージュとアンジェラだって都合があるだろう」
流石にレイジは口を挟んだ。
天使と人間との戦いが終わってから、レイジは人間の事を学んだ。
勿論ハロウィンの事もだ。
だから一体どんな日なのかは大体理解している。
それに今日はレイジにとって都合のいい日なのだ。
いつも一緒にいるギルヴァイスとヴィディアが気を利かせて留守にしているのだ。
大事な姉と自身を殺した事を水に流して人間と和解したのに、ジーナローズはただ褒めるだけだ。
――納得なんて出来るものか。
だからレイジは今日を待ちわびていた。
ハロウィンの行事にかこつけて、悪戯しようと企んで。
「あたしはお世話になるわけにはいきませんが、アンジェラを泊めてやってください。この子、ジーナローズ様の事が好きみたいで」
レイジはパージュが今言った事を頭の中で反芻した。
――そんな事言ったら、姉さんがアンジェラばかり構うじゃないか!
「あら、それは嬉しいわ。ぜひ泊まっていって」
ジーナローズは弾む声で言った。
それがアンジェラの宿泊が決まった瞬間だった。


夜、夕食を済ませたレイジたちはジーナローズの私室にいた。
彼女は何かを探している。
「ないわ。確かにここにしまったのだけれど……」
「何がないんだ?」
ジーナローズは悪戯っぽく笑って、アンジェラを見た。
「アンジェラに似合いそうな寝巻き」
アンジェラはきょとんとしている。
「もしかして……これか?」
レイジが探し出したのは、黒猫を模した着ぐるみだった。
「それだわ!アンジェラ、今日はこれを着て寝ましょう」
「……」
アンジェラはにっこりと笑った。
ジーナローズにとって、今年が最も幸せなハロウィンになった。






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2012年10月31日 荘野りず

ジーナローズ様って絶対アンジェラの事好きだと思って書いたもの。
いつもとテンションが違ってしまった。
本文を読んだ方にはお分かりかと思いますが、捏造ルートです。
たまには姉さんが幸せになってもいいじゃない。



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