トシマのホテルには今日もイグラ参加者たちが集う。
その一角にアキラとケイスケ、リンと源泉がいた。
四人は何やら談笑している。
「それにしても、リンって気前がいいよな。……本当にいいのか?このナイフもらっちゃって」
ケイスケが遠慮がちに訊く。
リンは彼にナイフをあげたことも忘れていたらしく、「ああ、それね」と気のない返事をした。
「いいのいいの。使わないやつなんか持ってたって無駄でしょ」
そう言って、水を行儀悪くがぶ飲みする。
ケイスケはそれでも悪いなぁといった顔だ。
「……そう言えば、リンの武器って何なんだ?ナイフも使わないって事は……まさか素手か?」
この会話に興味がなさそうだったアキラも気になるらしい。
アキラを気に入っているリンはその質問にどう答えたものかと迷っている。
このメンバーのには見せたことがないが、リンの武器は赤いスティレット。
「素手ではないよー。いくら俺が強くても流石に素手はないでしょ」
リンは曖昧に笑った。
――いくらアキラでも、これはそう簡単には見せられないな。


【スティレット】


リンがカズイとトモユキの様子がおかしいことに気づいたのは、二人がこそこそし始めてから一か月後の事だった。
ここのところ二人は何かを隠しているように見える。
「お前らどうかしたのか?様子が変だぞ?」
リンが尋ねても、二人は話題を逸らすのみ。
「今日は晴れだから、星がよく見えそうだ。夜はいつものところに行こう」
「あーもう!いちいち煩せーよ!」
カズイはいつも通りを装い、トモユキは喧嘩っ早かった。
「やっぱ、おかしーな。何を隠してんだよ!」
苛立ったリンが口調を荒げても、二人は気にしない。
「……何でもないから」
カズイの優しい言葉に惑わされてしまいそうな自分が口惜しい。
「本当だな?もし変なこと隠してたら、承知しないんだからな?」
やっと手に入れた自分の居場所。
それが気づかないうちに壊れてしまうかもしれないと思うと、怖くて仕方がない。
この二人に限ってリンを見捨てるということはないだろうが、これまでの経験が臆病にさせる。
「本当に、大丈夫だから」
カズイの優しい微笑み。
優しく頭を撫でる手。
「撫でんなよ!俺といっこしか違わないくせに!」
「ははっ!なんとなくこうしたくなった」
カズイの微笑み、トモユキの不満げな顔。
――ペスカ・コシカは永遠だ。
そう、信じて疑わなかった。


夏の暑い日、リンはカズイとトモユキに廃工場の裏に呼び出された。
この廃工場は最近見つけた溜まり場で、広くてたくさんの仲間が入れることが魅力だった。
「これ、俺とトモユキで稼いだ金で買ったんだ」
「俺らにしちゃあ気の利いたものだと思うぜ」
カズイとトモユキは赤い包みをリンに手渡す。
「稼いだって……どうやって?しかもなんで俺に?」
包みは小ぶりながらも中に入っているものは硬いらしく、ゴツゴツしている。
「忘れてるんだな。まぁリンらしいけど」
カズイが悪戯っぽく笑う。
「今日は誕生日だって言ってたじゃねーか。俺とカズイでBl@ster個人戦でコツコツ稼いだんだよ!」
トモユキはリンの反応が不満げだ。
「え?あ……そういやそうだったっけ」
実家にいたころは一か月も前から楽しみにしていた夏の日の誕生日。
チームの仲間とつるむようになってからはすっかり忘れていた。
「あ、えーと、サンキュ」
照れくさくて、それしか言えない。
そんなリンをカズイは優しく見つめていた。
「じゃあ我らがヘッドの誕生日会でもするか。ケーキも買ってあるし」
トモユキは乗り気だが、リンはそんな気分ではない。
この歳になって誕生日ケーキをみんなの前で食べるなんて恥ずかしい。,br> 「やめろよそんなの。このケーキは俺ら三人だけで食おう」
ケーキの箱から出てきたのは、やはりというか、定番というか、『誕生日おめでとう!リン!』と大きく書かれたプレートが乗っていた。
こんなものを人前で食べるなんてやはり恥ずかしい。
「ケーキもいいけど、プレゼントもあけてみろよ」
カズイに促され、包みを開けると、そこには赤い短剣――スティレットがあった。,br> 突きに特化した素早いリンにはぴったりの武器だ。
リンはケーキよりも俄然こちらの方が気に入った。
服にも映えるであろう赤い色もポイントが高い。
「俺、コイツを大事にする。二人とも、マジサンキュ!」
リンの嬉しそうな反応に二人も満足そうだった。
それからペスカ・コシカのヘッドは赤いスティレットを身に着けているという噂が流れた。


「俺の武器はねーヒ・ミ・ツ!」
リンはスティレットを送られたあの日の事を思い出し、今度はソリドにかぶりつく。
「はぁ?なんだよそれ!」
ケイスケが不満そうな声を上げる。
アキラも内心は気になっていたらしく、ますます仏頂面だ。
「まぁ、リンがイグラやってる時にでも見せてもらえばいいじゃないか」
源泉がタバコの火を消す。
「オイチャンとしては情報は欲しいが、そこまでがっつくほど飢えちゃいないしな」
「源泉さんならもっと食いつくと思ったのに」
ケイスケはリンの武器が気になって仕方がないらしい。
――まったく、しょうがない奴。
リンはこの街に来て少し変わったと思う。
口調も勝利への執着も。
それはいいことなのか悪いことなのか、リン自身にはわからない。
ウエストバッグの中ではスティレットが出番を待っている。








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2014年 月日 莊野りず

リンのスティレットがカズイとトモユキからの贈り物だったら萌える!
……なんていう、賛同してくださる方がえらく少なそうな萌えを文にしてみました。
ペスコシ時代のリンの、あのけしからん恰好がたまらんです。
あと個人的にリンは夏生まれだと何となく思う。



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