リンが大きなかぼちゃを買って帰ってきた。
そんなに食えるのかと聞くと、知らないの?という顔をされた。


【アキラとリンのハロウィン】


「これはね、ジャック・オー・ランタンを作るんだよ」
「……何だそれ?」
リンの言っている事がよく解らない。
ペスカ・コシカの頭だったリンだが、育ちがいい。
こういう所で教養がある。
「かぼちゃの中身をくりぬいて、中に蝋燭を立てるんだよ。ま、要は魔よけだよ」
そう言いながらリンはかぼちゃの中身をスプーンでくりぬいている。
「それで、その後どうするんだ?」
さっきから質問ばかりしている気がする。
俺ばかり知らないのはずるいと思う。
リンは笑って説明する。
「十月三十一日がハロウィンっていう、ヨーロッパから伝わった行事なんだ。あとは、トリック・オア・トリート」
リンは意味深に言葉を切った。
そして続けた。
「……お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!って意味。俺もガキの頃は毎年楽しみにしてた」
子供の頃のリン、というととても幼いリンが脳裏に浮かんだ。
トシマでさえあの低身長だったのに、子供の頃となるとますます小さいのか。
俺に構わず、リンは一心不乱にかぼちゃに向かっている。
普段はマイペースで、あまり集中しないリンだが、珍しく今日は集中している。
……今日の夕飯は俺が用意するか。
俺はそっと溜め息をついた。


「できた!」
それから三日後。
俺が丁度バイトから帰ると、リンの弾む声がした。
「……ジャック・オー・ランタン?」
「うん!」
リンは本当に嬉しそうだ。
そんなにハロウィンとやらが楽しみなのか。
直接訊けばいいのに、なぜか躊躇ってしまう。
「そうだ!」
リンが何かを思いついたように大声を上げた。
「せっかくだし、仮装もしよう!」
本当にハロウィンというものが解らない。
仮装してどうするのか。
「あ、アキラワケわかんないって顔してる。仮装もハロウィンのイベントの一つなんだ」
嬉しそうにリンは言う。
「ドラキュラとか魔女とか、狼男とか。その格好をして」
最後まで言われなくても解った。
「トリック・オア・トリート、だろ?」
リンはさっすが!と頷いた。
最近はリンが何を言いたいのか、大体わかるようになっていた。
それにCFCにいた時より、トシマにいた時よりも自然と笑うようになったと思う。
あのままトシマで一人でいたら脱出も出来なかっただろうとも思う。
「三十一日は俺、休み取ったから。アキラも休み取れよ」
当然のように言った。
俺のバイト先はなかなか休みが取れない。
「取れるか解らないけど、言うだけ言ってみる」
俺はそれだけ言って、寝室に向かった。
今日も疲れた。


そして三十一日が来た。
俺が目覚めると、いつも一緒に寝ているはずのリンの姿がなかった。
リンが寝ていたところは、まだ暖かかった。
「リン」
なんとか休みが取れた俺はもう少し寝ていたかったが、リンが隣にいないと……正直言って寂しい。
Bl@sterに参加していた時はなんとも思わなかった孤独がリンと一緒にいるようになってから痛烈に感じるようになった。
「リン?」
もう一度、朝靄に向かって問いかける。
「アキラ、こっち」
リンの声がした。
声のした方を見ると、リンがいた。
リンは黒い猫耳と尻尾をつけていた。
「リン……その格好は?」
首もとの鈴をちりんと鳴らして、リンは俺に抱き着いてきた。
「黒猫だよ。トリック・オア・トリート!」
しまった、菓子など買っていない。
「悪い、リン。俺はよく解らなくて、仮装の用意も菓子の用意もない」
するとリンは悪戯っぽく笑って、俺の唇に自分のそれを重ねてきた。
「っは!悪戯しちゃった」
リンは悪びれずに照れたように笑った。







_____________________
2012年 10月31日 荘野りず

咎狗の世界観って、ハロウィンはアリなのか悩みながら書きました。
シキとリンの家では行事をきちんとやっていそうなイメージ。
大人リンは大きくても受けです。
むしろED後は受けオーラが増していると思うんです。



咎狗トップに戻る

inserted by FC2 system