「ここがトシマか」
案内人に連れられ、卑猥な雑踏が混じる街へ辿り着いた。
旧祖トシマ。
ここにあの男がいる。
そう思うだけで気が引き締まった。


【星に願いを・1】


Bl@sterに参加していた頃、その噂は聞いていた。
「殺人オッケー?なあリン、Bl@sterなんかやめてそっちいかねえ?」
正直な話、殺人に興味がなかったわけじゃない。
ただその興味がほんの少ししかなく、今の時間が心地よすぎた。
「Bl@sterで最強のチームなんだ。それでいいじゃないか」
リンの胸中を察するかのように、カズイが言った。
内心ほっとした。
今の大切な仲間との時間を壊したくなかった。
「まあ、それもそうだよな。よし今日も勝ったんだ、祝杯でも挙げようぜ!」
どこから仕入れてきたのか大量の安酒を片手に、皆好き勝手に乾杯を始めている。
リンも缶チューハイのプルタブを開けようとした。
が、カズイに止められた。
「……」
「なんだよ。皆飲んでるじゃないか」
カズイの手から缶チューハイを取り戻そうとするも、腕を高く上げられて届かない。
いつもならなんとも思わないが、こういう時は少し悔しい。
「なんで俺だけ……」
リンが観念したのを見てカズイは口を開いた。
「リンは悪酔いするからな。前なんて酷かった。あの時は――」
そのときの事を思い出しているのか、カズイは少し困った顔をした。
リン本人には悪酔いした記憶などないが翌朝酷い頭痛に襲われた事だけは覚えている。
「確か五本くらいしか空けてないと思うんだけど」
「いや七本だ」
きっぱりと訂正されてしまった。
今日は酒が飲めないのか。
少し残念だったが感じた事はそれだけだった。


「リーン!お前も飲めよ〜」
酔い潰れたトモユキが口の中を酒臭くしてこっちによって来た。
手にはウィスキーのビンが握られている。
リンの傍に寄ろうとしたトモユキをカズイが止めた。
「お前は飲みすぎだ。リンまで飲みたいとか言いかねないからそこまでにしておけ」
カズイが諭しても、この酔っ払いは止まらない。
「何だよ〜。お前も飲めよカズイ〜」
カズイは溜め息を吐くと水道のほうへ向かっていった。
その隙にトモユキはリンの傍に寄ってきた。
「お前酒臭いんだよ。カズイが水持ってくるまで大人しくしてろよ」
リンは素早くトモユキの手からウィスキーの瓶を奪い取ると、中身を全部床に流してしまった。
「ああああ!何すんだよ、リン!」
トモユキは酔っ払い特有のノリで大げさにがっかりすると、リンの両腕を掴んだ。
そこから乱暴にリンの唇を奪った。
「!?」
調子に乗って舌まで入れてきたので、トモユキの膝を思い切り蹴った。
「いってえ……。何すんだよたかがキスくらいで」
「うるせえ!」
そこへ水を汲みにいったカズイが戻ってきた。
「ほら、水だ。飲め」
当然、今のやり取りも見られていたのだろう。
だがカズイは何も言わない。
リンは少し寂しかった。


トシマについた日は、あちらこちら歩き回るつもりはなかった。
適当に目に付いたビルに一人で身を隠し、睡眠を取った。
Bl@sterで見知った顔も少しだけ見かけたが、リンが一人だと知るとあっさり襲い掛かってきた。
――ペスカコシカの雄猫が一人でこっちに来てるらしい。
そんな噂はすぐに流れた。
寝場所にしていたビルも皆にバレて、数日間睡眠をとることが出来なかった。
そんなある日の事。
「お前さん一人なのか?」
不健康そうな中年の男に声をかけられた。







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2012年 6月19日 荘野りず

本編沿い補完話・咎狗リン編。
ちょこちょこペスコシの過去話挟みながら進めていく予定です。
最終的にはアキリンになるはず。


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