「なんだよオッサン。狩って欲しいなら狩ってやるぜ」
スティレットを構える。
だが、相手の男はやれやれと言わんばかりに咥えていたタバコをもみ消した。


【星に願いを・2】


「お前さん、よっぽど疲れ果ててるんだな」
男が言った。
そして手を伸ばしてくる。
それを跳ね除け、睨み付ける。
「そう警戒しなさんなって。俺はただの情報屋だ。名前は源泉。お前は?」
「……リン」
顔を上げる気力もないので、そのままの姿勢で答えた。
「そうか、リンか。お前さんさ、あちこちで狙われてるようだけど大丈夫なのか?」
リンは身体に力がはいらないため、極力身体を動かさずに答えた。
「俺は……なんでもない」
目の前のこの男だったら全てを受け入れてくれたのかもしれない。
けどリンはそうしなかった。
仲間を死なせてしまった負い目もあったし、見ず知らずの他人に頼るのもプライドが許さなかった。
「この近くに中立地帯のクラブがある。そこでひとまず休んだらどうだ?」
返事を する時間を与えるまでもなく、源泉はリンを担いで表通りへと向かった。
「オイ!離せ!自分でも歩ける!」
ペスカコシカの元頭を知っている人物は意外と沢山いた。
頭であるリンの顔はBl@sterで対峙した相手ならほとんどは知っている。
『外見で騙された!』と言う負け犬の遠吠えな発言も、今まで何度も耳にしてきた。
「……オッサン」
「ん?何だリン」
リンは源泉の広い背中から身体を下ろした。
「もう、ここまでで大丈夫だから。……その」
言葉が上手く紡げない。
こういう時はシンプルなのが一番だ。
「有難う」
そう言うと源泉は嬉しそうに歯を見せて笑った。
「おう。子供は素直なのが一番だぞ。じゃあなリン。俺はこのクラブに一日一度は足を運ぶから、また会えると思うぞ」
正直、源泉の言葉は心を安定させた。
でも、結局は憎まれ口を叩いてしまうのが癖で。
「オッサンなんか、会えなくても困らないんじゃない?」
つい憎まれ口を叩いてしまった。
本当は感謝しているのに。
源泉はリンの言葉を気にしていないようだった。
そして中立地帯のホテルの場所を教えていった。
メモに残された筆跡は汚いが、地図代わりにするのには十分だった。
そしてその夜は久しぶりにホテルのベッドで寝た。


源泉と頻繁に連絡を取り合うようになったのはそれからだ。
彼が情報屋だと解ると、リンは日本刀を持つイグラ参加者に固執しはじめた。
源泉も戸惑ってはいたが、リンの撮る写真で稼いでいるせいもあってか、気にしなかった。
源泉と急に仲良くなり始めた時期に、リンは映画館で旧知の顔を見つけた。
「……トモユキ!」
ペスカコシカのメンバーを引き連れ、トモユキは薄く笑っていた。
「どうしてお前たちまでこんな……、帰れよ。皆を連れて帰れよ!」
半ば怒鳴りなりながら言った。
それでもトモユキのニヤニヤ笑いは消えない。
「裏切り者の話を聞く筋合いはないな」
「……っ!」
裏切ったわけじゃない。
それでも真実を話すことができなくてここまで来た。
それを今更言い訳も弁明も出来る訳がない。
「おいリン。ちょっと手伝ってくれ」
源泉の声がして振り向くと、彼は大量の資料と思われる書類を抱えていた。
「あ〜もう。解ったよ、オッサン」
リンの顔には自然な笑みが浮かんでいた。
カズイを亡くしてからの、初めての笑みだ。
「……俺たちにはあんな顔向けねーよな、リンは」
トモユキは悔しそうに言った。









________________________________________
2012年 6月24日 荘野りず

はい、源泉とリンの出会い編。
個人的にリンはトシマに来た当初は、思いっきり苦労すれば良いと思います。
だから、同じ苦労をあじあわせたくないがためめに案内役を引き受けたんだと思います。
前回微カズリン、今回は微源泉リンのつもりで書いたのですが、如何だったでしょうか。

咎狗トップに戻る 次へ

inserted by FC2 system