トシマに来て一年が過ぎた。
相変わらずシキは見つからない。
確かにこの街にいるはずなのに。


【星に願いを・3】


ブタタグは随分溜まった。
毎日ホテルを利用しても十分足りそうなくらいに。
だがリンはできる限り節約する事にした。
何があるかわからないから。
リンは数えるために取り出したタグを再びウエストバッグの中にしまった。
バッグの中身も来たばかりと比べると増えていた。
主に写真だ。
源泉に頼まれた写真もあるし、趣味で撮った写真もある。
その中の一枚を手に取る。
「……カズイ」
写真の中の彼は今のリンと同い年だ。
なのに自分にはない落ち着きがあって、思わず頼りたくなる。
チームがあんな事にならなかったら、今はどうしていただろう。
リンは最近見つけた高いビルに向かって歩き出した。


そのビルは北地区の映画館という中立地帯のそばにあった。
クラブのマスターが映画館のことを教えてくれたので試しに来てみた帰りに見つけたのだ。
階段が何段か崩れていて、一度外に出ないと上には登れない。
そんなところが気に入った。
毎日ホテルで寝るのはタグの消費が厳しい。
今夜はここで寝る事にした。
その前に今日の星空をカメラに収める。
「……今日も見つからなかった」
ウエストバッグを枕にして身体を横たえる。
ゆっくり瞼を閉じても、中々眠りは訪れない。
やっと眠れたと思ったらリンはあの血だまりにいた。


『リン……』
仲間の自分を呼ぶ声がそこらじゅうから聞こえる。
けれど、どこを見ても生きているものなどいない。
血塗れになって空ろな目でリンを見つめる。
その乾いた瞳にはリンを責める雰囲気がある。
死体になった仲間たちの手が自分に迫ってくる気がして、リンの心は震える。
『助けて……そうだ、カズイは……』
自分に血塗れの手が迫ってきたところでリンは目を覚ました。
嫌な汗をかいている。
「……夢」
いっそ現実なら良かったのに。
それならせめて謝る事ができるから。
ウエストバッグからタオルハンカチを取り出して汗を拭いた。
とても二度寝できそうもない。
窓から外を眺めてみるも、まだ夜明けは遠かった。


夜明けまでの長い時間を写真を見ることで潰して、朝になるとソリドを食べて外に出る。
食欲はあまりなかったが食べなければ体力が続かない。
最近は源泉に会っていないので、久しぶりにクラブへ急いだ。
クラブでは源泉が他の情報屋と何か話し込んでいた。
「――だ。それで――」
商売の邪魔になりそうだったのでカウンターへ向かう。
馴染みのバーテンダーが声をかけてくる。
「お前かー久しぶりだな」
彼は明るく笑って青いカクテルを勧めてくる。
「?何これ」
食欲はないが喉は渇いていたので、そのまま受け取った。
源泉のところへ戻ると丁度話は終わったらしく、リンに声をかけてくる。
が、その手にあるカクテルを見てぎょっとした。
「お前、それの意味解ってんのか?」
「?カクテルだろ。喉渇いてるし」
一気に飲み干す。
酒は久しぶりだったので少しくらくらする。
「お前ってやつは……。それはな特殊な嗜好を持つもの同士が互いを見つけるためのものなんだぞ」
その一言で何が言いたいのか解った。
空になったグラスを慌てて源泉のそばに置く。
源泉は困った顔をしたが空だったので構わない事にしたらしい。
「今度から気をつけるよ。ってか、オッサンっておせっかいだな」
何の縁もゆかりもない自分の事を本気で心配しているようだ。
今まではそんな人は数えるほどしかいなかったから、それは素直に嬉しかった。
カクテルに隠された様々な意味を教えてくれた後、源泉は口を開いた。
「で、今日は何か用か?」
「絵タグをどこかで見かけなかった?」
そろそろ頃合いだ。
いい加減ブタタグにも飽きてきた。
「何だ、お前さん本気で王に挑む気か?」
「本気」
即答すると源泉は少し困った顔をした。
ただでさえ絵タグはレアだ。
源泉は古ぼけた手帳をぱらぱらと捲ると白紙のページに目印を書き込んで破いた。
「教えてやってもいいが、こっちも商売だ。危険な参加人物――たとえばシキか?そいつの写真でこの情報売るぜ」
シキ――願ってもない事だ。
こちとらそれが目的でトシマにやってきたのだから。
「解った」
了承すると源泉はそのメモをリンに渡した。
リンはそれを受け取ると、足早にクラブを出て行った。
「無茶だけはするんじゃねーぞ!」
源泉の声を聞きながら。












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2012年 6月28日 荘野りず

リンのトシマ生活一年目。
トシマに来たばかりのリンは何も知らないほうが個人的に萌え。
最初は源泉にもツンツンしてる方が可愛いと思います。
現在とのギャップ萌えですね。


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