リンの持っているシキの写真は一枚だけだった。
幼い頃、広い庭で母親に撮ってもらった物だ。
リンはそれをウエストバッグから取り出すと思い切り破って捨てた。
あの男なんて兄なんかじゃない。
自分はそう認めない。


【星に願いを・4】


クラブから隠れ家にしているビルに戻るとスティレットを取り出した。
ここでは武器は自分の事を守ってくれる大切な相棒。
今までの雑魚をこれで沈めてきた。
血のりがつく度に拭いて研いで、手入れをしてきた。
バタフライナイフも持っているが使いづらい。
だからこれに頼るのだ。
それからタグの確認。
最初にアルビトロの城で得た唯一の絵タグがA。
これでも幸運な方らしい。
他の参加者はブタタグばかりで不平を漏らす者が多数だったから。
誰かを倒して手に入れたのはJのみだった。
リンが持っているのは城で受け取ったタグの中にあったA。
まだ日は高いので外に出てタグ集めをする事にした。


源泉の情報で西地区まで来た。
この辺りは初めてだ。
できるだけ人の目に留まらないよう、早足で歩く。
「あ」
思わず惚けた声が出た。
西地区の大通りでイグラが始まっていた。
筋肉質な男と対峙するのは中肉中背の若者。
既に勝負は見えているが、Jを下げているのは後者だった。
運だけで生き残っていたのだろう、降参というように頭を下げている。
それでもマッチョは気に食わないのか好きなだけ殴る蹴るを繰り返す。
タグは後回しのようだ。
とにかく殴るのが楽しくてしょうがないらしい。
そこでリンは声をかけた。
「オイ、筋肉ダルマ。俺とヤんねぇ?」
ウエストバッグからスティレットを取り出すと、舌で唇を舐めて見せた。
この手合いは軽く煽っただけで本気になって襲ってくる。
Bl@sterでもそうだった。
「……おいチビ。本気か?」
彼とリンの身長差は三、四十くらいある。
それに好色な色を瞳に滲ませている。
こんな男はチームでよく狩ったものだ。
「本気。勿論負けたらそのタグ貰うよ?」


結論から言うと、リンはあっさり勝った。
相手はリンをただのチビとしか認識せず、リンのスピードについてこられなかった。
おまけにスティレットが急所を狙っているので反撃もできず、惨めに負けたのだ。
鏡の収穫はJ一枚と取り巻きから奪ったブタタグ二十枚。
一年もトシマにいても絵タグはJとAが一枚だけだ。
後は全てブタタグ。
リンは焦り始めた。
そこからいつもの隠れ家に向かう途中、悲鳴が聞こえた。
それ自体は珍しくないのだが、その声に混じってはっきり聞こえた。
「――シキだ!シキが来た!うあああああ!」
リンはビルへの道を引き返して、その声の元へと急いだ。


リンがその場に着いた時には一面死体しかなかった。
「シキ!」
だが死体とは別に黒い人影が道路を挟んだ向こう側にいた。
久しぶりに見る兄は相変わらずで弟だと気づいていても対して興味はなさそうに去っていこうとする。
「待て!」
リンがスティレットを逆手に持って立ち向かおうとするとあっさりと日本刀でそれをいなした。
そして足の兼を切ろうとする。
本能的に恐怖がよぎった。
それで攻撃から防御へ回ってしまう。
何度か刀で弄ばれ、シキはそれに飽きると、早足でビルの裏通りへと歩いていった。
屈辱感でいっぱいだった。
せめてシキの写真くらいは撮っておかないと源泉への礼にはならない。
いつもはワクワクした気分で撮るのに、今日のものはあまり出来が良くないと自分でも思った。











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2012年 7月4日 荘野りず

リンのあの写真の謎に迫ろうの巻。
シキを撮るためにおってたのなら、そんな暇があったら倒せよ。
といった感じなので、致命傷を与えられなくて悔しいから撮った、と思うんですよ。


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