シキの写真を源泉に渡してからも、彼はリンに難しい注文をつけてくる。
情報と引き換えのときもあるが、ほとんどの礼はソリドだった。
もう自分の持っているタグだけで生活していけるが源泉には助けてもらった恩が多少ある。
それに最近はタグ取りをしていないからか仲間の夢もあまり見ない。
カズイにだけでも会いたいと思うのは我侭なのだろうか。


【星に願いを・5】


その日、リンは夢を見た。
何の変哲もない夢だ。
たた、タグ取りをしていた頃に見ていた夢とは少し違う。
カズイが穏やかに笑っているのだ。
チームの仲間が責めるようにリンを見る、そんな悪夢とは違った柔らかな夢。
これだけ穏やかな夢を見たのは久しぶりだった。
夢の中でカズイは笑って、リンに手を差し伸べてきて――。


朝。
寝床にしているビルの中でリンは目を覚ました。
眠気覚ましにペットボトルの中の水を飲む。
それから好物の焼肉味ソリドに手をつける。
昔は焼肉も食べに行ったっけ。
こんな固形ソリドではなく、本物の焼肉を賞金で。
ウエストバッグからカズイの写真を引っ張り出し、そこに映るカズイの顔をじっと見つめる。
「……カズイ。俺はアイツを殺すから。どんな事をしても、殺すから」
リンは誓うように写真のカズイに口付けてバッグにしまった。


今日は何か特別な事があるかもしれない。
カズイの夢を見て思う。
カズイはいつも何かが起こる前に警告してくれていた。
そのおかげで結構な修羅場もすり抜けてきた。
今回もそうかもしれないと、大通りを歩く。
そこに見かけた事のない二人組みが歩いてきた。
見た事のある顔――カズイに似ている。
リンは思わず物陰に隠れる。
とりあえず危険そうではない。
ラインを使っている者の目ではなかったし、もう一人はタグを下げていない。
これは少し強がってみても良いのではないか。
胸の動機を悟られないように声をかけてみる。
「ちょっとそこの!」


彼らはアキラ、ケイスケと名乗った。
アキラはカズイに似ている、顔が。
だから彼のJはしばらく保留にする事にした。
Bl@sterでは見たことも聞いた事もなかったから、いざとなれば本気を出した自分のほうが強い。
……はずだ。
胸に浮かんだ少しの不安を振り払うように、リンは源泉に会ってみないかと持ちかけた。
二人は素直についてきた。
丁度約束していた写真が出来上がっていたし、源泉に会うためだけに時間を潰すのも勿体無い。


クラブにつくと早速源泉を紹介した。
そして写真を一枚、一緒に撮ると、それぞれの飲み物を取りにカウンターへ向かう。
そこにはいつかのバーテンがいた。
「あっ、お兄さん!昔オレにブルーカクテル飲ませただろー!あん時は意味解んなかったから見られてないかヒヤヒヤしたんだぞ!」
リンが頬を膨らませてみせると悪いとばかりにバーテンは語る。
「いや、あれが解るかどうか試したんだよ。新人ならあれを持っているだけでロックオンされちまうから、どう対処するのかって」
「じゃあ本当にあの二人が新人なのか調べる事も出来る?」
「ああ」
即答したので、アキラとケイスケの分はブルーカクテルにした。
源泉はビール。
それらを何とか抱えてテーブルに戻ると、三人は難しそうな顔をしていた。
「おっ待たせー!」
リンがブルーカクテルをアキラとケイスケの前に置くと二人は珍しそうな顔をした。
「こんな綺麗なカクテルがあるんだな」
「……おいリン」
源泉がじろりとリンのほうを見た。
たじろぐと、ますます深く見つめられる。
「だってほんとに新人か気になるじゃん?」


――この時はカズイと顔が似てるとしか思っていなかった。

















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2012年 7月28日 荘野りず

やっとアキラ登場!ここまで長かった
クラブでのやり取りはゲーム本編で描かれているので省略。
あの時リンが「バーテンのお兄さんと意気投合〜」と言っていたので、そこだけ捏造してみました。


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