あの後、源泉に頭を撫でられて彼とは別れた。
その後はアキラ達とも別れた。
アキラとケイスケはブルーカクテルを渡しても無反応だったので、新人だと思うことにした。
リンはいつも利用しているビルを早足で登った。
「アキラかあ……」
カズイとよく似たあの顔がリンの脳裏に焼きついている。
リンはウエストバッグから写真の束を取り出すと、一番上の写真を見つめた。
「カズイはアキラの事どう思う?」
勿論返事はない。


【星に願いを・6】


翌朝目覚めると、トシマでは珍しく快晴だった。
朝の光がリンの目元に当たる。
久しぶりにゆっくり眠ったような気がする。
身体もいつもより軽い。
「さっそく現像してもらおう」
起き上がって伸びをして、朝食のソリドと水に手をつける。
「ありゃ、これで全部か」
ソリドはともかく、水は余計に持っておきたい。
いつ怪我をするかも知れないから、医薬品も揃えておきたい。
今日は写真の現像と中立地帯で物資の補給、それとアキラたちの様子も気になる。
必要な荷物をウエストバッグに詰めて、リンはビルから出た。


ホテルの一角ではブタタグと物資の交換の他になぜか写真の現像をやってくれるところがある。
情報屋達も利用するのだろう、この街では滅多に見ない札が金庫にしまわれている。
「おっさん、現像お願い!」
リンは昨日撮ったばかりのアキラ達との写真のデータが入ったメモリを抜き出すと、クロークの親父に渡した。
「タグ五枚」
「あれ、前は三枚じゃなかったっけ?」
「需要が増えたからな。現像はどうする?」
「じゃあお願い」
そう言ってウエストバッグからタグを三枚取り出して親父に渡す。
「確かに。今日の夕方には出来る」
引き換え用の札を受け取り、クロークを後にする。
あの写真をアキラに見せたらどんな反応をするだろう。
そう思うとワクワクした。
そしてホテルから出た。


アキラ達と出会った通りには喫茶店があった。
確かあの二人に会ったのはその近くの裏路地だ。
きっと喫茶店を拠点にでもしているのだろう。
中で待っていて驚かせてやろう――そう思ってリンはそこへ足を踏み入れた。
店内には割れたガラスなどが散乱していて、危なっかしい。
リンはブーツの厚底でガラスを踏む。
外の景色を見ていると、屈強な男達がこちらに向ってくるのが見えた。
――確かにまるみえだもんね、ここ。
リンはウエストバッグからスティレットを取り出す。
アキラ達は、というかアキラは、カズイに似ている。
なんとなく世話を焼きたくなるのだ。
けど、まだ自分の武器を見せる気にはなれない。
それはいざという時まで隠しておこう。
「……女?」
リンはスティレットを構える。
つま先に力を入れて、前へと飛び掛る。
「ざんねんでした〜ついてます」
つい舌で唇を舐める。


割れたガラスを踏む音が聞こえて、リンは撮影していた手を止めた。
次に入ってくるであろう人影に向ってシャッターを切る。
「おかえり〜」
――やっぱり驚いてる。
リンはにっこり笑うとケイスケに話しかけた。
この人数を一人で倒した事に驚いているらしい。
ケイスケはひたすら「凄い」を連呼していた。
ばさりと何か紙の束が落ちるような音がしたので、そちらを見ると、どうやら写真を落としてしまったらしい。
「リン、この写真は……?」
アキラが持っているのはシキの写真だった。
慌てて奪い返したら、おかしな目で見られた。
失敗した写真だから、そう言い訳した。
シキ――仲間達の、カズイの仇。
リンはアキラとケイスケが見ていないところで殺気を放っていた。








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2012年 8月2日 荘野りず

アキラとの絡み少々、捏造大量。
ホテルのクロークにでもあるんじゃないかと思います<写真の現像。
デジカメの仕組みがよく解らないので、使い捨てカメラのハイテク版みたいな事に。
今回の話はカップリングがないですね


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