「ちっ……くしょう」
今リンがいるのは狭い部屋の中。
アキラにタグ取りのバトルを挑んで、無様に負けたのだ。
こんな事は初めてだった。
両手首を縛って監禁されるなんて。
外に出たら絶対殺してやる。


【星に願いを・8】


アキラは丁寧にリンの世話をしていた。
包帯を替えたり、口移しで水を飲ませたり。
だがリンの調子は悪くなる一方だ。
自分が切りつけた腿の傷が痛むのかと気を揉んでいた。
リンはどんどん衰弱していく。
心なしか誰かに見られているような気もする。
でもリンの怪我は命にかかわるかもしれない。
アキラは抗生剤を取りにホテルへと向った。


アキラと入れ違いになる形で部屋に入ってくるものの気配を感じた。
それは懐かしいような不思議な気配だった。
「……生きてるか、リン」
だが、その正体が解ってしまえばなんでもない。
「うるせえよトモユキ」
その不機嫌そうな顔を見て懐かしそうに目を細める。
「あいつに捕まってたんだろ?俺らが逃がしてやるぜ。猫は動き回らなきゃな」
そう言ってトモユキは、リンの手首を縛っているカーテンに手を伸ばした。
リンのこの表情が堪らないとばかりに顔が緩む。
「……キモい」
リンが明らかに眉根を寄せると、トモユキは「また来るぜ」と言って出て行った。
一体何がしたいのだろう、あの男は。


でもまあ、トモユキが手の戒めを解いてくれたおかげで動きは楽になった。
あとはアキラに気づかれないように、ゆるく巻きなおしておくだけだ。
アキラから口移しで水を貰ったせいか、身体が多少軽くなっている。
リンのタグは奪われてしまったが、戻ってきたアキラから回収すればいい。
ただ心配なのは、アキラに切りつけられた腿だ。
コレが王戦でどこまで影響があるかだ。
とりあえずリンは考える事に疲れたので、手にカーテンを巻きつけて眠りに落ちた。


「酷い熱だ」
アキラが手にした注射器を慎重にリンの太腿から抜くとリンの夢らしきものが聞こえてきた。
リンは強い振りをしてここまで生きてきたのだ。
彼が本当は弱く儚いものだと気づいてしまった。
ケイスケにも申し訳なさだけが募る。
きっと雨に濡れたままだろう。
そう思うとやるせなくなった。
リンは一言だけ人名らしき単語を言うと、限界とばかりに眠り込んだ。


ガタン、とドアが開く音がして、再びトモユキが顔を出した。
見るとアキラという男は疲れて眠っているらしい。
好都合だとばかりに、リンが捕らわれている奥の部屋へと歩みを進める。
「リン」
リンは怪我と戦っていた。
低い唸り声を上げて眉間に皺がよっている。
歯を食いしばっているらしく、時々歯軋りが聞こえた。
「……カズイ」
その一言がトモユキにどす黒い感情を呼び寄せた。
ペスカコシカ時代、トモユキはリンと二人きりになった事などなかった。
リンはいつもカズイと一緒だったから。
彼のことをカズイに任せてもいい、なんて思い始めたのもそう昔ではない。
なのにこの男は、あんな短期間でリンと親しくなるなんて。
許せないこの男。
リンはきっと王へ挑むだろう。
タグ取りの現場を見たものの勘だ。
――だったら……。














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2012年 8月6日 荘野りず

男の嫉妬は醜いぞ>トモユキ
多分こんな感じで王戦を邪魔しようと思ったんだと思います。
書いていて思ったけど、何かヤンデレっぽい。


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