素直になれない10のお題 カズリン(リン→カズイ)で攻略
1、奥歯を噛んで
今日は珍しくBl@sterの試合に出なかった。
カズイが買い物に行きたいと言い出したからだ。
エリア:GHOSTの傍の賑やかな繁華街。
そこにペスカコシカの揃いの服を着たリンとカズイはいた。
二人とも手に紙袋を持っている。
リンの場合は抱えている、と言ったほうが正しいか。
既に夕方で夕日が綺麗だ。
「もうすぐ星が見えるな」
カズイが少し嬉しそうに言った。
「そうだな」
リンも頷く。
別に一緒に買い物に行きたいといったわけではない。
自然にカズイの行く先にはついて行くようになっていた。
だから、今日一緒に買い物に来たのも不自然ではない……筈だった。
「カズイじゃねぇか。買い物か?」
見知らぬ男が声をかけてきた。
髪を灰色に染めて、だらしなく伸ばしている。
「ああ。久しぶりだな」
カズイの顔に笑みが浮かぶ。
珍しいと思いつつ、その表情にどきどきする。
チームのメンバーの前ではこんな顔しないのに。
「そっちの小さいのはツレか?」
男がリンのほうを覗き込む。
なぜかそれが不快で、男を睨みつける。
「おお怖っ。猫みたいだな」
カラカラと笑う。
「あまり絡むなよ。こう見えて切れると何するか解らないんだ」
カズイが宥めるが、それは火に油を注いだ。
地面に転がる小石をブーツの底でつつく。
腰に下げているスティレットが音を立てる。
「……機嫌悪そうだな。でも可愛いツラしてんじゃん」
それは小さい頃から周りによく言われてきた。
兄は格好良い、自分は可愛い。
「でも――程じゃないけどな」
「お前は何を言い出すんだ」
カズイが顔を赤くして止めに入る。
前に付き合っていた女の名前らしい。
まあカズイほど優しくて顔が良ければそれも当然かもしれない、だが面白くない。
「久しぶりに会ったと思ったらアイツ……」
まだ顔が赤い。
普段は穏やかなだけにギャップがある。
面白くはないが、こんな顔のカズイを見れたのは嬉しい。
「行くぞリン。まだ欲しい物があるんだ」
会話を受け流してくれと言う目でカズイはリンのほうを見た。
その夜。
買ってきたソリドを齧りながら、リンは溜まり場の屋上から空を見上げていた。
『でも――程じゃないな』
その言葉を反芻しながら、また一口。
カズイの好きな味のソリドなのにイマイチだった。
「なんだ、俺カズイが好きなんじゃないか」
今更ながら自分の気持ちを理解した。
口に出してみるとすっきりする。
そろそろカズイがここに来る時間だ。
いつもカズイは街の街灯が灯る頃に顔を出すのだ。
それまでは何をしているのか知らないけれど。
「リン」
星と月の静かな明かりが街灯に呑まれたとき、カズイがドアを開けて現れた。
今日はあんな事があったせいか、いつも余裕のある顔が少し焦っている様に見えた。
――今なら言えるか?
自分に問いかけて、止めた。
「どうかしたのか?」
いつもなら何か話しかけているのに静かなリンを疑問に思ったのか声をかけてきた。
「なんでもない」
奥歯を噛んで、たった二文字の言葉を飲み込んだ。
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2012年 6月25日 荘野りず
カズイってあの外見だし、優しいしで、モテないはずがないと思う。
何というか……喧嘩の強い草食系?
リンは本編よりペスコシ時代のほうが荒んでて口が悪そうなイメージ。