素直になれない10のお題 カズリン(リン→カズイ)で攻略

2、辛くなんかない


カズイが女連れで歩いていた。
他のメンバーには素直に「おめでとう」と言えるのに、カズイには出来ない。
何でなんだろう。


後でカズイにそれとなく聞きだしてみると、道を尋ねられていたらしい。
放っておけばいいのに、カズイにはそれは出来ないらしい。
……もっと離れろよ。
俺なんか見ていることしか出来ないのに。
腕を絡めるな、笑いかけるな。
「……リン?」
カズイに声をかけられて不意に正気に戻った。
「何?」
なんでもない風を装って答える。
本当はそれど頃じゃないくせに、自分で自分に意地を張っている。
「あ、あたしここまでくれば道解るから。じゃ、ありがと」
女は去っていった。
最後まで親しげだった。
カズイもまんざらでもないようで、ニコニコと手を振っている。
……俺にはそんな顔しないくせに。


「なあカズイ、金、貸してくんねえ?」
酒に酔ったトモユキがカズイに絡んでいる。
一応トモユキの力も認めてはいたが、あまり頼りにはしていない。
トモユキよりも穏やかなカズイの方が扱いやすく、力も持っていた。
「酒臭いぞ、トモユキ。俺だって金があるわけではない」
あくまで穏やかにトモユキの要求を突っぱねる。
……羨ましい。
俺だってカズイとそんな風に絡みたい。
だが頭であるリンにそれは赦されない。
禁忌であればあるほどに欲求は強まっていく。
それを抑える術をリンは知らない。
リンはその光景に耐えられなくなって、溜まり場から消えた。
それに気づいたのはカズイだけだった。


「リン」
短く名前を呼ぶ。
振り返るリンは戸惑いの表情を浮かべていた。
リンはなぜカズイがこの場にいるのか解らないようだった。
「途中で抜けてきた。リンが心配だったから」
それで合点がいった。
カズイはリンを心配してここまで来てくれたのだ。
それだけでも嬉しかった。
だけど、なぜここが解ったのだろう。
「リンは星が好きだからな」
それだけ言うとカズイはビルの屋上に横になった。
奇しくもリンと同じ体勢だ。
「……俺はさ、今のままが一番いいんだ」
リンはカズイの話に聞き入っている。
「お前達の面倒を見て、喧嘩して」
そこで一呼吸置いた。
「それで幸せだ」
カズイは変化を望んではいない。
そうなるとリンが望むような関係にもなれない。
……辛くなんかない、今までもそうだったんだから。
我慢できる、そう思った。
天の星はリンの想いをあざ笑うように輝いていた。

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2012年 11月9日 荘野りず

素直じゃないリンを書くのは一苦労です。
本編のリンは明朗だけど、過去のリンはぶっきらぼうな感じで書きづらいです。
でも現在とのギャップに萌えるので頑張って書いてます。



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