家族に対する10のお題 シキリンで攻略

10、自分にとっての『家族』ってやつ


「シキ、お前は長男なのだからしっかりしなければならない」
 幼かったあの日、正装をして父に会った。
そこで求められたのは長男としての資質だった。


 「シキ。紹介しよう。お前の新しい母親だ」
そういって紹介されたのは、まだ若くて金髪に碧眼の持ち主だった。
 特に何かを思ったわけではない。
ただ自分の母になるのなら、どんな人間か確かめておきたかった。
シキは簡単なクイズを出した。
 彼女はそれを解けなかった。
シキは失望した。
こんな愚鈍な女が自分の母親であるなど恥だ。
そう思った。
だが弟が生まれると評価は変わった。
なんてしっかりとした手で弟を抱くのだろう。
 弟に向けられる慈愛の笑みは周りにいるものの気持ちも蕩けさせた。
シキ自身も弟に対してこれまでにない愛情を感じた。
 少し力を入れただけで折れそうな首。
 滑らかな肌。
 弟はリンと名づけられた。
いつでも凛としていられるよう、という願いを込めて父親がつけた。
 「リン」
シキが名を呼ぶと、まだ幼い赤子はにっこりと笑った。


それから十年の時が過ぎた。
 幼かった弟は何かとシキの真似をするようになった。
 「だって兄貴みたいになりたいじゃん」
リンは命名理由の通り育った。
 多少腕白だが、父親は男の子はこれくらいで丁度いいと言った。
やがてシキが仕事に就くと、その内容を詳しく聞きたがった。
 別に邪魔ではなかったので、シキは仕事の内容を事細かに話した。
 「凄い!やっぱり兄貴は凄いよ!俺、仲間に自慢する!」
リンが興奮して言った。
――まてよ、確か今度の仕事は。


シキはリンを呼び出した。
リンに会いたかったという理由もあるが、確認しておかなければならないことがある。
 今回のシキの仕事は『ペスカ・コシカ』の殲滅だ。
その場にリンがいてはいけない、絶対に。
それに内心チームの仲間に妬いていたというのも事実だった。
その日はリンから味との近場を聞き出し、別れた。
リンだけはこの手にかけたくない。
 何しろ赤子の頃から面倒を見てきたのだ。
 責任感、長男という立場――どれでもない。
 心から愛しいからこそ嫉妬に襲われるのだ。


ペスカ・コシカを潰してから数年。
シキもリンもトシマにいた。
それも閉鎖された高速道路に。
 「赦せねえ、絶対!」
リンはシキに向けて激しい殺気を放っていた。
 対してシキは冷静だった。
 最愛の弟の手にかかって死ぬのなら、それも悪くはない。
 「感情に左右されやすいのはお前の欠点だな」
 知っていて、わざと煽る。
リンならば受け止めてくれるだろう。
この身を焦がす焦燥を。
――ああ、これが俺にとっての家族というものだ。
 身体を刀で差し抜かれながら、そんな事を思った。

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 2012年 11月4日 荘野りず

 シキリン兄弟の父親は何となく軍人のイメージ。
リンの母親はリンによく似た細身の金髪碧眼だと思います。
シキリン兄弟はすれ違いが書いていて楽しいです。



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