愛のシチュエーション10のお題 カップリング色々で攻略

10、世界でたった二人きり(リン→カズイ前提 シキリン)


寒い。
 閉じ込められて、もうどれほどの時間が流れたのだろう。
リンにはそれを知るすべはない。
この部屋には時計もないし、ましてやカレンダーなどあるわけでもない。
 「……喉、乾いた」
そう呟いたリンの声は枯れている。
ここに閉じ込められてから、一滴も水を飲んでいない。
 食料もまったく口にしていない。
 水の入ったペットボトルも、ソリドも手の届くところに置いてある。
……しかしリンはそれらを手に取らない。
そうしてしまうと認めざるを得ない――敗北と服従を。
あの男、兄であるシキにそんな真似をするのなら死んだ方がマシだ。
その強い意志がリンの狂ってしまいそうな心を支えている。
いっそ狂ってしまう方が楽だ。
 「……カズイ」
もうかなりの昔の記憶と成り果てているカズイの笑顔だけがリンの慰めとなった。
 涙が一筋、流れ落ちた。
 昔ならいざ知らず、今のリンには助けてくれるものなど誰もいない。


トシマでは比較的きれいな部類に入る廃ビル。
 元は賃貸物件だったのだろう、連れ込まれるときにこの街では珍しいポストが目に入った。
アキラたちと別れて、ケイスケの行方を捜していたリンは、再び北の映画館でトモユキたちと会った。
 青いツナギの男を探していると尋ねると、めぼしい情報が入ってきた。
それと同時に、シキの目撃情報も教えてくれた。
トモユキは彼なりにリンの事を気にかけているようでもあった。
 合えば口喧嘩ばかりだが、この街でリンの事を心配してくれる人物は貴重だ。
 口には出さないけれど、感謝して映画館を出たところでシキに遭遇した。
シキは相変わらず表情を全く変えずにライン中毒者を容赦なく斬っていた。
 『シキ!お前だけは許さない!』
そういつもの呪詛を吐きながら向かっていった。
……思えばあの時から兄であるシキの様子はどこかおかしかったのかもしれない。
シキは薄く笑って日本刀を鞘から抜くと、リンの目を見た。
そうやって目を見て会話したことなどなかった。
 『……楽しませてくれるんだろう?』
あの時のシキの目には、どこか暗い愉悦のようなものがにじんでいた。
その赤い目に射抜かれたように、リンは動けなくなった。
 当然シキがその隙を逃すわけもなく、柄を鳩尾に沈めてきた。
 『ぐッ!』
リンがその痛みに膝をつくと、更に首を掴まれ高く掲げられた。
 呼吸が出来なくて苦しい。
シキは無表情にリンを眺めて、気を失うまで首を絞め続けた。
 次にリンが目を覚ましたのは無機質な造りの狭い部屋の中だった。
 両手を手錠で拘束され、硬いベッドに転がされていた。
その時は状況が全くつかめず混乱した。
――俺は確かシキと戦ってて、それで……。
 覚えているのはシキに敗北したということだけ。
あの兄の性格からして、興味の持てない弟など斬って捨てるはずだ。
なのに生かされている。
どういうことだと首を傾げてみるが、身体の自由がないこの状況では何もできることなどない。
その時、シキが水のペットボトルと様々な味のソリドを持って部屋に入ってきた。
 「目が覚めたか」
シキはコートを脱いでいた。
 兄弟なのに似ても似つかない体格の差を思い知らされてい嫌になる。
 「……どういうことだよ」
なんとかいつもの口調で尋ねると、シキは楽しみが出来たとばかりに笑った。
リンのように周りから好かれるような笑みではなく、恐怖を抱かせる笑みだった。
 「生かそうか殺そうか迷う負け犬が二匹もいてな。お前と、反抗的なはねっかえり。……俺は正直、イグラにもイル・レにも飽きてきた」
その負け犬の一人がリンということだろう。
もう一人の負け犬、というのが気になったが、聞くのも癪だ。
 「そこでお前たち二匹を俺の気まぐれで構ってやる。より可愛げのある方は生かしておく。そしてもう一匹は……解るだろう?」
 考え方は理解できないが、言っていることは解る。
 「……つまり俺とそのもう一人は、アンタに気にいられなきゃ死ぬって事だろ?」
この男の悪趣味さはアルビトロのそれとは違うが、少しは似ている。
 吐き気がする。
 「ここに水と食料は置いて行ってやる。俺が来たら可愛く鳴いて強請ってみろ」
それだけ言って、シキはリンに背を向け出ていった。
それから先のことは覚えていない。
とにかく、リンは大嫌いなあの男に媚を売らなくては殺されてしまう。
――本気で殺すつもりだ。
 直感的にそう悟る。
だがリンにはシキに媚びてまで生き残るという選択肢はない。
だから水も飲まず、ソリドも食べず、極限のところで耐えている。
 目の前にあるものを我慢して、実際には三日間。
まるで拷問だった。


 「……死んでいるのか?」
 四日目の朝、部屋に戻ってきたシキの第一声がそれだった。
 酷い渇きに苦しめられたリンは手錠で纏められた両手で首を掻きむしって、その状態のまま眠っている。
 元々白い肌が更に白くなり、まるで死人のようだ。
 「……お早いお帰りで」
 頬が少しこけて、細いリンの体格がより細く見える。
 皮肉を言うくらいしか体力が残っていない。
シキは乱暴にリンの金色の髪を掴み上げた。
 多少衰弱はしているものの、リンの目には反逆の意思が残っている。
 「……いい目だ」
シキは満足そうに、リンを舐めるように見た。
そしてリンが全く食料に手を付けていない様子を見ると少し意外そうな顔をした。
 「お前は何も食べていないのか?水も減っていない」
 「誰がお前の施しなんか受けるかよ!」
リンの反抗的な態度に、シキは目を細めた。
 「お前がこれほど面白い奴だったとはな」
 初めて兄の関心が向けられたというのに、リンは全く嬉しくなかった。
シキの赤い瞳に嗜虐心が見える。
 「……俺は絶対にアンタを許さない!」
 恐怖をこらえるようにリンが言い放つと、シキはリンの身体をベッドに縫い付ける。
そして持っていたコンパクトサイズのナイフでリンの服を切り刻んでいく。
 無言で黙々と。
 「な、なにしてんだよ!」
 流石のリンもこれには驚く。
 「黙れ」
シキの一喝でもリンは足をばたつかせて抵抗した。
そのリンの頬を何度も叩きながら、シキは弟のむき出しになった身体をじっくり眺めた。
 「……世界でたった二人だけの兄弟だ。昔は昔だ。可愛がってやろう」
あれだけ欲した兄の可愛がってやるという言葉も、今では全く嬉しくない。
 無理やりリンの身体を押さえつけたシキは慣らしのつもりで一気に指を二本、差し入れる。
 「うっ……やめ、ろ」
 当然リンは呻いた。
シキはそんなリンの反応が楽しくて仕方がないらしく、無理やり足を開かせる。
 無理に出し入れを繰り返すが、そこは何かを入れるような場所ではない。
 「や、めっ……」
 「仲間と関係があったのだろう?ならこれくらい苦ではないはずだ」
シキはリンがカズイと関係があったと決めつけている。
――違う!カズイはそんな奴じゃない!
そう言おうにも痛みが勝って、口先から出るのは呻き声のみ。
 他の男とは何度かそういうこともあったが、誓ってカズイとは清い関係だった。
だからこれ以上の辱めを受けるのはカズイへの侮辱だ。
そんなことは許さない。
 「カ、ズイは……そんなんじゃない」
ちょうど指が出たところで何とか言えた。
そんなリンをあざ笑うかのように、リンの中にシキのものが入ってくる。
 「ぐっ……あっ!」
この男はどこまでリンを貶めれば気が済むのか。
リンのそんな思いに気がついたのか、シキは満足げな顔をしている。
 蹴り飛ばしてやりたいが、力が入らない。
どんどん肥大していく痛みに涙が溢れそうになる。
それでも耐えているのはシキを許さないという強固な意志があるからだ。
 「……気に入った。やはり俺とお前は世界でたった二人きりの兄弟だ」
 赤い目がリンの青い目とかち合う。
 「生かしておいてやる。……俺の愛玩物としてな」
 表情にも声音にも、全く感情が感じられない。
シキの冷たい赤い瞳に映ったリンはやっとのことで自我を保つ、弱い少年でしかなかった。
 絶望がリンを壊すまで、シキは嬲り続けるつもりだ。
リンは逃れられない。
――カズイ。
 部屋を出ていくシキの背中を見つめながら、頭に浮かぶのはやはりカズイの顔だった。

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 2014年 3月1日 莊野りず

 リン→カズイ前提で、無理やりなシキリンでした。
 他ジャンルのブラマトシリーズのバッドエンド萌えをこじらせているせいか、リンルートにこういうバッドがあってもいいんじゃないかと。
 兄弟萌え(近親相姦?)もこじらせているので、兄弟でも全然大丈夫です。……浮いてませんかね?
シキとリンは『昔は仲が良かった』か『昔からシキは冷たかった』かのどちらでも美味しく萌えるんですが(その時の気分で、というのもあります)、
 今回は後者ですね。
この場合はとことんリンには耐えてもらいたいものです。リン大好きなんですが可愛い子ほど苛めたくなります。
あと、もう一匹の負け犬はアキラの事です。シキルート入って、シキが外出してるときはリンを相手にしてると思うと美味しいなーと。



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