無分類30のお題 →TYPE1

1、歌声(カズリン)


うらぶれた街中に一軒だけあるカラオケボックス。
 今日は大入りだった。


 「じゃあトップバッターは俺な!」
トモユキがマイクを握る。
 周りからは煽る声や野次る声、ブーイングなど様々なリアクションが帰ってくる。
 今日の打ち上げはBl@sterの優勝賞金でカラオケという事になった。
 穏やかに過ごしたいカズイのリクエストだ。
いつもは報復に行っている時間なのに退屈だと感じないのは、カラオケボックスという一種の特殊空間の魔法だろうか。
リンがそんな事を考えながら二杯目のウーロンハイを注文している途中でトモユキの歌が終わった。
 全然知らない曲だが、世間では流行のJ−POPらしい。
 「あの辺らしかったな」
 「でもビブラートとか微妙だった」
 知っている者も多いらしく、その曲を歌っているグループの話題になっている。
 「おっ、得点でるぞ!」
トモユキが興奮してディスプレイに注目した。
そこには八十三点とでかでかと得点が出ており、その横や下にビブラートや音程等の細かい評価が出ている。
 「トモユキ、さっきは絶対九十点台だって言ってなかったっけ〜」
 「嘘ついたからトモユキの奢りでどっか食いにいこーぜ」
からかいや野次が一斉にトモユキに集まる。
トモユキはそれから逃れようとカズイに声をかける。
 「おいカズイ、誘ったのはお前だろ?なんか歌えよ」
それもそうだと一同はトモユキからカズイに視線を移す。
 「言い出しといてなんだけど、俺は最近の曲とか詳しくないんだ」
 「何でもいいから歌えよ。ネタになりそうな曲大歓迎だぜ?」
トモユキがマイクを手渡す。
カズイは素早く曲を入力する。
ディスプレイに出てきたのは誰も知らない古い曲。
これはリンには解った。
 実家にいた頃母親が気に入っていて、よくCDをかけていた曲だ。
ボーカルは確か女性だったがキー調節で上手く調整している。
 「恋人〜」
 歌いだしはまるであのCDそのままだった。
しかしあの時聴いたものよりもカズイの歌い方の方が好みだ。
 曲が終わり、得点が出る瞬間を誰もがじっと待った。
それだけカズイの歌声は素晴らしかった。
 「嘘だろ……九十六点、だと?」
トモユキが固まった。
いつも静かに本を読んでばかりのカズイがここまで上手いとは予想もしていなかったのだろう。
 視線を一身に集めるカズイは照れ臭そうに笑った。
 「親がフォーク好きでさ。いつもこれがかかってたんだ」
 親というのは義理の親の事だろう。
それでも上手く折り合いをつけられるカズイが羨ましかった。


 「そう言えばリン、お前一曲も歌っていないんじゃないか?」
カズイが突然リンの方を見ながら言いだした。
――余計な事を。
 舌打ちした音が聞こえてしまったらしく、トモユキの絡むターゲットがカズイからリンに変わった。
 「歌えよ。リンが何歌うかキョーミ深々なんだよな、俺」
 歌い終えた後に酒を飲んだのだろう、軽く酔っていて、いつもはしないようなリンの肩に腕を回すというボディタッチをしてくる。 「俺は歌うより聴いてる方が好きなんだよ」
それでもトモユキを始めとする悪ノリ軍団の勢いは止まらない。
 「そんな事言っちゃって〜実は激ウマなんじゃね〜の?」
 「絶対上手いだろうよ、このペスカ・コシカのヘッドだぜぇ」
 「歌えよ!」
ひたすら「歌え」コールが狭いボックス内に響き渡る。
とどめはトモユキの一言だった。
 「……とか言って、実は超絶音痴なんじゃねーの?」
その一言で、リンはマイクを握った。
 「……笑うんじぇねーぞ?」
 一同を氷の目で一睨みし、素早く曲を入力する。
チャラちゃん♪とディスプレイに表示されたのは童謡だった。
 流石に笑えない一同。
 構わずリンは真剣に歌う。
その図はあまりにもシュールで、誰一人口を利かないし、笑いもしない。
 曲が終わった時には盛り上がていた空気は一気にクールダウン。
ただ一つだけ拍手が鳴った。
 「上手いじゃないか」
カズイが満面の笑みでリンをたたえる拍手をしている。
 「……からかってるのか」
 恥ずかしさに顔を真っ赤にしたリンがそう問うが、カズイは顔色一つ変えずに言った。
 「育ちがいいんだろうな。意外な一面が見れて俺は嬉しいよ」
そのストレートで邪気のない褒め言葉に、リンは更に顔を赤くした。





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 2014年 12月16日 莊野りず

咎狗で歌声ってどうやって攻略しようかと迷っていたら、いきなり頭に浮かんだのがカラオケでした。
いくらなんでもカラオケくらいはあるよね、じゃないと若者の遊び場ほとんどないじゃん。
 最初の案ではリンに君が代を謳わせようかと思ったんですが、世界観的におかしいと思って没にしました。



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