無分類30のお題 →TYPE1
2、クリティカルヒット(トモユキ→リン)
「いってぇ」
『報復』の帰り道、トモユキは赤く腫れた頬を押さえて歩いている。
隣にいるリンはそんなトモユキなどお構いなしに、自分のスピードで歩く。
「ちょ、リン!もっとペース落とせよ。追いつけねーし」
「自分で喰らったダメージだろ?そんくらいなんともないだろ?」
リンはあくまで冷静にそう言った。
思えばペスカ・コシカ結成時から、この小さなカリスマに心惹かれていたのかもしれない。
「昔は良かったな〜」
リンはトシマの中でもお気に入りのビルの天井に寝っ転がって、当時のBl@sterの写真を眺めていた。
あの頃はみんな仲が良くて、結束してて、そして何より最強という自負があった。
カズイももちろん生きていて、『報復』の帰りのリンをいつも心配していた。
未だに彼の表情を忘れられずにいるのは、それだけ執着しているという事なのだろうか。
リンとしてはむしろ執着しているのはシキなのだが。
それにしても今日はやけに空が青い。
雲も少ないし、今日は飛び切りの夜空を楽しめそうだ。
そう思うと前向きになれる。
リンは名残惜しくゆっくりと写真をウエストバッグに仕舞った。
今日はどこへ行こうか、なんてことは歩きながらでも決められる。
「おっ、おじょーちゃん、イグラ参加中?」
「ああ、俺こう見えてついてるから」
イグラ参加者に女子と間違えられて絡まれるのも、もう慣れた。
そのいなし方も簡単だ。
「男だって―んなら遠慮はいらねーよね?」
筋肉質の、リンを呼び止めた男は殺気だった目で見てきた。
その事自体に嫌悪感を覚えつつ、リンは彼がかかってくる前に鳩尾に蹴りを入れてやった。
「〜っづ!」
悶絶する男に、更に蹴りを加えて、背中を地面につけさせる。
「は〜い。俺の勝ち。タグはもらってくよ」
まるでちょっとコンビニにでも言ってくるとでもいうような調子で、リンは男からタグを奪い取った。
ブタタグはだいぶ溜まったが、肝心の絵タグがイマイチだった。
「な〜んだ、大口叩くからいいもん持ってんのかと思ったのに」
リンはそのまま大通りの方へと向かう。
残された男は身動きが取れず、いずれ来るであろう処刑人に怯えるしかなかった。
「ん?」
大通りの方に出てみると、何やら騒がしい。
どうやらチームを組んでタグを集めている者たち同士の醜い争いの様だ。
昔はチームの仲間がいたが、今のリンは完全に一人。
助ける義理などない、そう思っていた。
しかしどうしても目立ってしまう、オレンジの髪に、リンの心が揺れた。
「トモユキか!」
思わずリンはそちらに向かって走り出していた。
トモユキたちは明らかに劣勢で、一人、また一人とタグを奪われていく。
もうすぐトモユキ自身の番だ。
現ペスカ・コシカの実質的リーダーである以上、彼に逃げることは許されない。
そもそもイグラはそういうものなのだ。
迫ってくる拳に、トモユキは覚悟を決めた。
――これまでかよ!
だが、いつまで経っても痛みはやってこない。
代わりに倒れたのは相手の男たちの方だった。
何事かと辺りを見回すと、スティレットを両手に装備したリンが飛ぶように舞っていた。
どうやらリンが助けてくれたらしい。
いつもは軽口を叩いてばかりだが、こういう時には本当に頼りになる、元頭。
トモユキ的にはリンの生き方そのものがクリティカルヒットなのだった。
リンは礼すらいえずにいるトモユキを一瞥すると、すぐにそこから去って行った。
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2014年 12月18日 莊野りず
ドクターXの「群れを嫌い〜」云々のナレーションがカッコよかったので、リンにも孤高のカリスマっぽい感じになってもらいました。
昔は群れてたけど、今ではほとんど一匹狼って、なんか格好良くないですか?
トモユキはきっとその辺のギャップにやられたんでしょう(適当)。