無分類30のお題 →TYPE1

3、銀(アキラvsシキ)


「君に是非受け取ってもらいたい物がある」
慇懃な口調で男は部下に何かを命じた。
忙しい身のシキとしては、こんな悪趣味の男とは関わりたくないが、ラインを流すために仕方がなく組んでいる。
全てはあの男を自分の手で葬り去るため。
そのためならシキは何を犠牲にしても構わない。
しばらくして、男の部下がアタッシュケースを持ってきた。
「……君のための特注品だ。気に入ってもらえれば幸いなのだが」
その中には純銀製のクロスが大小二つ入っていた。


「今の貴様など、俺が殺すに値しない」
シキはアキラを振り返ろうともせずにその場を去っていく。
屈辱に耐えるアキラだが、足元に光るものを見つけた。
何かと思いしゃがみこんで拾ってみると、それはシンプルで小さなクロスだった。
思い返してみると、この場から去る時にはシキはこのクロスを落としていた。
彼なりの挑発か?
それならば上等だと思った。
アキラはそのクロスを強く握りしめて、再戦を胸に誓う。
――いつか、俺を舐めたことを後悔させてやる。


日本刀というものは、扱いに慣れてさえしまえば楽な武器だと思うようになった。
ただ軽く振り回すだけで、容易く他人の命を奪うことが出来る。
アキラはいつしかあの男――シキを追い続けるあまり、無意識のうちに彼の真似をしていた。
黒一色の服装、日本刀という武器、そして胸元の銀のクロス。
トシマでの生活を知る者ならば、この特徴を聞いただけでアキラをシキと勘違いする事だろう。
拾った時には純銀で、穢れなど一つもなかった小さなクロスは、今や見る影もないくらい血で錆びついていた。


裏社会で生きるようになってからは、情報に敏感になった。
いや、あの男と戦うためならばならざるを得なかった。
それだけあの男がアキラに与えた屈辱は耐えがたいものだった。
今日も金で雇ってある情報屋からニュースを聞く。
「……ああ」
思わぬ収穫だった。
ついにあの男が数年ぶりにアキラの前に現れたというのだ。
シキは待ち合わせ場所を指定してきたらしく、アキラはゆっくりとメモを取る。
――これで、やっと叶う。
アキラは日本刀を持ち、待ち合わせ場所へ向かった。


待ち合わせたのはアスファルトのフィールドで、あちこちが隆起したり陥没したりしている。
「……久しぶりだな」
アキラが口角を上げる。
その笑い方はシキのものと酷似しているのだが、肝心のアキラはその事に気づいていない。
「……ほう。その銀を錆びさせたか。少しは腕を上げたらしい」
「アンタも、相変わらずのご活躍だそうじゃないか」
負けじと言い返す、不意に笑みが零れる。
これからは互いに命を懸けて存分に戦えるという高揚感、幸福感。
「……いくぞ」
どちらともなくかけた声は、風に攫われて聞き取れなかった。


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2014年 月日 莊野りず

これは、シキアキって言っていいものですか?
どうも殺し愛エンドに関してはどう表記していいのかよく解りません。
とりあえずアキラが変わっていくところと純銀のクロスが錆びるところが書きたかっただけです。



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