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4、街外れ(アキリンアキ)
五年間。
これはアキラがリンを待っていた年数だ。
それと同時に、行方も、生死さえも不明なリンを信じ続けた時間の長さでもある。
どれだけでも待つつもりだった。
それがリンが何よりも望んだ、『信じる』という事だったから。
今日も思わず来てしまうのは街外れ。
ここではもう一種のスポーツ感覚として据えられるようになったBl@sterの試合会場になっていた。
トシマで嫌というほど命の重さを理解したアキラは、もう二度と『死』について考えなくなった。
考えてしまいそうになる自分を諌めるためにここに足を運んでいると言ってもいい。
当然参加はしない。
あれから五年も経っているし、とてもではないが若者に交じる自信がないくらいには大人になっていた。
それに観戦する楽しみというものも理解できていた。
ケイスケが自分の試合を見に来ていた頃は、何が楽しかったのか全く理解できなかった。
しかし今ならば解る。
この臨場感を周りと共に味わい、贔屓にする選手やチームを応援するのが楽しいのだ。
アキラはペスカ・コシカの名を模したチームばかりを応援している。
彼ら自身も、かつて最強と恐れられたチームの名を背負っているという気概を感じさせてくれる。
その姿勢には素直に好感が持てて、試合を見に栗頻度も上がっていた。
応援の声を出すこともするようになった。
昔の自分とは似ても似つかない自分の姿に、アキラは内心苦笑する。
それでもこんな日々は悪くない。
いつかリンが帰ってくるのだから。
「おう兄ちゃん、今日も例のチーム狙いか?」
アキラより少し年上に見える男がそう尋ねてきた。
「ああ、最近は勢いがついてて見てて楽しい」
「そりゃあ、イイ事じゃねーか。……ところでよぉ、兄ちゃんってもしかして、LOST?」
「っつ!」
思わぬところに伏兵がいたものだ。
反応してしまってはそうだと認めたも同然。
「俺はさ、Rayのアンタが好きだったんだよ。ってもファンって意味だけどな」
LOSTの名が聞こえたと若者たちが騒ぎ始めた。
それほど自分は有名だったかと思い返してみるが、当時いた友人らしきものはケイスケの他にはエースとディーくらいしかいない。
それなのに、この若者たちの騒ぎようはどうだ。
中には化粧の濃い女もいて辟易する。
「LOSTはどこだー?」
「サインもらおーぜ!」
若者たち独特のノリで試合会場は満客だ。
レフェリーも困り果てている。
「……こっち」
アキラの手を急に力強く引っ張った。
その声自体は小さかったが、どこか懐かしい感じがした。
「お前は……?」
人ごみで、男の事は背格好しか解らない。
アキラよりも断然背が高く、がっしりとした方のラインが印象的だ。
触れ合っている手もどこか骨っぽいが薄すぎるというほどでもない。
違う街外れに何とか逃げ込むと、肩で息をしていた事に気づく。
そこまで体力が落ちていたとは思わなかった。
男も同様で、膝に手をやって呼吸を整えている。
キャスケット帽をかぶった頭部は、しゃがんでいるため影になって見えない。
「……アキラって有名人なんだから気をつけないと」
その声は、聞き間違いでなければ確かに彼のもの。
当時は尖っていて、怒りを露わにしてきたことも何度かあった、激しかった声。
男は姿勢を正してキャスケット帽を脱いだ。
そこからあふれ出したのは柔らかな金の髪。
「……ただ待っているのも辛かったんだ」
アキラはそう返した。
するとすっかり大人になったリンは困ったように笑った。
「……ごめん。こっちに抜けるのに時間かかっちゃってさ。こんなのただの言い訳だけど」
「いや、返って来てくれたんだろ、俺のために」
ここで照れたように頬を掻くリン。
その仕草は大きななりをしていてもどこか愛らしい。
「もちろん!」
大人になっても笑顔は変わらないものらしい。
「おかえり、リン」
「ただいま、アキラ」
そう二人で囁き合って、軽くキスを交わした。
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2015年 1月6日 莊野りず
リンルートエンドの『ペスカ・コシカを模したチームもあるらしい』とのテキストから思いついた話です。
つまりそれだけカリスマ性のあるチームで、当然その頭はカリスマなんですよね?
……すみません、リンの事となるとつい暴走する。
要は、『Bl@sterチャンプ同士の強者同士の恋』が書きたかったんです。
多分伝わってなさそうだけど。