無分類30のお題 →TYPE1
10、消毒(カズリン)
「オラァ!」
敵味方入り混じれての大混戦。
これはBl@sterではない。
ペスカ・コシカ恒例の『報復』だ。
リンはこの戦いを高揚して楽しんでいた。
地べたに這いつくばる男を夢中で蹴りつける。
その時、不意打ちでリンの頬に激痛が走った。
「クソッ!」
唇の端を切ったらしく、鉄の味がする。
「大丈夫か、リン!?」
仲間たちがわらわらと集まってくる。
「心配ねーよ!」
リンは乱暴に唇の端を拭った。
「ちっ。アイツら汚ねーな」
ぶつぶつ文句を言いながら、リンはいつもの特等席を目指す。
いつもはトモユキがくっついてくるところだが、彼は久しぶりの酒に大喜びでここにはいない。
「卑怯な手ぇ使いやがって」
自分たちの事は棚に上げて、一方的に相手を悪く言うのはリンの常だ。
セラミック製らしき階段は一歩上るごとにギシギシと音を立てるが、今のところは壊れる危険性はないだろう。
時々立ち止まって、そこから見える星々を鑑賞する。
星空を見ていると全てを許せそうな気になる。
たっぷり三十分ほどかけて上った廃ビルの屋上には予想通り先客がいた。
チーム内で唯一『報復』を嫌う変わり者。
「……またやって来たのか」
彼はため息を吐きながら呆れたような顔をする。
『報復』の後はいつもこうだ。
「別に、お前には関係ないだろ?」
ご機嫌取りなどするつもりはない。
自分はこのチームのヘッドだし、彼はナンバー2に過ぎない。
しかしどこか逆らえない無言の圧力のような者を感じることはよくあった。
「頬のところ、殴られたのか?唇も切れてるな」
「うるさいな。俺がどんだけ怪我しようと俺の勝手だろ?」
そう突き放すように言っても、カズイはじっとリンの顔を見つめる。
「……消毒しなきゃな」
顎に手をやられた時、瞬間的にカズイの手から逃れた。
血液が急激に顔に集まるのを感じる。
それ以上何も言えなくなっていた。
いつの間に用意したのか、カズイの持っていた小さな鞄には消毒用アルコールやら鎮痛剤やら、一般的な薬品がそろっていた。
「リンが無茶しすぎた時のために準備しておいたんだ」
カズイは少し得意げだ。
「……消毒っつったらキスじゃねーの?」
半分本気でからかうリンだが、その手には乗らない。
カズイはただ無言で頬に軟膏を塗り、唇の傷はアルコールで消毒後に絆創膏を張った。
無難すぎる手当てでつまらない。
「よし。……これに懲りたら余計な喧嘩なんかやめろよ?」
すっかり保護者気取りのカズイに不満なリン。
「カズイが『報復』に参加するんならやめてやってもいい」
カズイにとっての無理難題を押し付ける。
「……全く。こんなかわいい顔してリンの中には闘争本能しかないのか?」
かわいいという単語に何とも言えない気分になる。
母親似で女顔の自分の顔があまり好きではない。
「……どうせ俺は男らしくない顔だ」
「気に障ったのなら謝るよ。でも俺はリンの顔も含めたすべてが好きだから」
そう言って微笑むカズイにはもう何も言えない。
我ながら厄介な男に惚れたものだとリンは思うが、それも悪くないとも思えるのだった。
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2015年 1月10日 莊野りず
喧嘩三昧Bl@sterの日々でのカズリンです。
今回は普通にリンがカズイの事をからかってますが、最終的にはやっぱりリンの負けです。
リンは一生カズイには敵わないと思う。
とんがってるリンが書きたかったのに、いまいちそんな感じはしませんね。