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12、狩り(アキラ→シキ前提 アキリンアキ殺し愛)


「……今の貴様など、俺が殺すに値しない」
そう言ってシキは去った。
その場に残されたアキラは最初こそ硬直してしまい、手も足もまるで動かなかった。
しかし十数分もすると、悔しさが胸の中を占めるようになる。
――俺は、あいつに、ワザと見逃された……?
その意識が感情をどす黒く染めていく。
 「くそっ!」
 想いきり廃ビルの壁に拳を入れる。
 鈍い痛みと共に血が流れるが、そんな事は今のアキラにとってはどうでもよかった。
――シキ、アンタが望む通り、俺はあんたを殺す。
その後、謎の男の言葉をヒントに何とかトシマを脱出したアキラは日興連側に保護された。
だがその直後から、アキラは表舞台から一切姿を消した。


キン、と心地よい金属音と共に日本刀は鞘に納められた。
 襲ってきた連中は十人。
あの男に少しは近づけたかと思いながら、無表情で生きていたそれらを見る。
――死とは、心臓が止まり、脳の機能が止まる。
そう、ただそれだけだ。
トシマに行って得られたのはそんな単純な真理。
 弱者はただ這いつくばるしかない。
それもアキラ自身の身を持ってよく知った事だった。
 今でも忘れられない、あの男。
 仮にもBl@sterチャンプであった自分のプライドを至極簡単にへし折ったあの男を。
 忘れない、忘れられない。
あの男の動き、行動、そして言葉。
 「……雑魚が」
アキラはそう呟くと、さらなる強者が出そうな場所を捜し、その場から動いた。


 治安の悪い街には必ず酒を出す店というものもあるものだ。
アキラが現在情報収集に利用しているのもそんな店だった。
 薄汚れたヤニ臭い壁に、傷だらけの木製のカウンター。
 椅子も穴が空いたものをガムテープで補修してある。
 入り口のドアを開けると、今時では珍しいドアベルがちりんと鳴った。
バーのマスターがこちらの顔色を窺うように一瞬アキラの顔を見たが、すぐ逸らした。
そして何でもなかったかのように他の客の注文に応える。
アキラはいつもの席――カウンターの一番端に座る。
ここならば日本刀を置くスペースにも困らない。
やがてマスターが注文を聞きに来る。
 「……水でいい」
いつもの事だからそう言うと思っていたのだろう、彼の手には未開封のミネラルウォーターのペットボトルがあった。
 立ち去ろうとするマスターを捕まえて、いつもの質問をする。
 「日本刀を持った、強い男を知らないか?」
この店に入ると欠かさず訊いている事だ。
この日のマスターはいつもと様子が違っていた。
 彼は声を潜めると、他の客に聞こえないよう小声で言った。
 「……それが、北地区の開発地に日本刀の男がいたらしいです。それが滅法強いって噂ですが」
 一か月ぶりにこの店に来て、初めて得た情報だった。
 今まではただの強い男を探し求めていたのだが、いい加減あの男が恋しかった。
あの男の強さへの執念や主義が懐かしい。
 今のアキラを見たら彼は何というだろう。
かつての彼とほぼ同じ服装をした自分を、いったい彼はそう思うのだろう。
そろそろ会いたいと思っていた頃間だ、ちょうどいい。
アキラは代金を払うと再び日本刀を手に取り、北地区へと向かう。
――やっと、アンタに会える。
 何年も笑っていない口角が自然と上げるのを感じながら、北地区へと急ぐ。
 走るわけではないが、早足で歩く。
あの男がそうであったように。


 北地区の開発地、そこには復興の象徴である平和のモニュメントが建てられると噂になっている。
そんな事は今のアキラにはどうでもいい事だった。
 建設中のそれの傍に、黒を纏った影が見えた。
 左肩にかけられているモノは間違いなく日本刀の鞘だ。
――シキ!
どれだけアンタを追いかけてきただろう。
どれだけアンタのために殺し尽してきただろう。
どれだけアンタに会いたかっただろう。
シキならば当然、アキラの気配など解るはずだ。
 挑発してきたのはシキの方なのだから。
アキラは容易く避けられることを想定して、素早く刀を抜いた。
 相手も自分の気配を隠す気は全くないらしい。
 殺気が痛いほどに伝わってくる。
 相手も刀を抜いた。
――今だ!
アキラは思い切り日本刀を振り回す、相手はそれを容易く受け止める。
 全力を出したのに、まだ俺はアンタには敵わないのか。
 瞬時にそんな事が脳内をかすめたが、そんな事を考えている余裕はなかった。
 連続で刀を振り回す、それも急所を的確に狙う。
そんな太刀筋に今更ながら違和感を覚える。
シキはこんな戦い方はしない。
こんな、攻撃をしてくる相手と言えば心当たりは一人だけいた。
 闇の中ではあの時のような柔らかな金の髪は目立たないが、確かに彼――リンが日本刀を手にアキラと対峙していた。
 身長が伸び、体格も青年らしくなっていたが、確かにそれは成長したリンだった。
 「……リン」
アキラが攻撃を防ぎながら、そう呟くと、猛攻がぴたりと止まった。
リンはアキラを不思議そうに眺めている。
 「あれ、ひょっとしなくてもアキラ?何してんの、こんなトコで?」
 持っていた日本刀を鞘に仕舞うと、リンは人懐っこい笑みを浮かべた。
その表情だけはトシマ時代と変わらない。
 「ある男を探しているんだ」
 「ある男?……奇遇だね。俺もとある男を探してるんだ」
リンの全身のファッションに目を向けてみると、アキラほどシキに近い恰好ではないが、彼もまた黒のジャケット、パンツといった、どこかシキを連想させるファッションだ。
 自分を凝視する視線に気づいたのか、リンはあっけらかんと笑った。
 「アキラの探してる男って、どんな奴?情報交換でもしない?トシマでの生き残り仲間同士、さ?」
 相変わらずのリンだが、以前より少し表情に陰りがある。
リンもアキラのように死よりも許せない屈辱を味わったのかもしれない。
 「ああ。俺が捜しているのは、お前も知っているだろが、シキだ」
アキラの一言で、それまでニコニコ笑っていたリンの笑顔が崩れた。
 途端にリンからピリピリするほどの殺意が向けられるのを感じる。
 「……シキ?どうしてあいつを追うの?」
 「アイツに俺は殺される事より許せない、屈辱を受けた。それにアイツは俺に『追って来い』と言った。……だから、俺は奴を殺すために、それだけのために剣の腕を磨いてきた」
アキラにしては饒舌すぎた。
それだけ、アキラの中でシキは大きな存在になっていた。
 寒空の中で二人は対峙したままだ。
 「……アキラさ、シキを殺すの、俺に譲ってくんない?」
リンの低い声が開発地に染みるように響く。
ただその一言なのに、何か複雑な事情があるのだとアキラは思わざるを得なかった。
 「アイツは、シキは俺の仲間の仇だ。それに俺もトシマでは奴の温情、いや楽しみのために生かされた。ある意味でアキラ以上に俺の方がアイツを殺したがってる。だから……」
 再び鞘から日本刀を抜き、切っ先をアキラへと向ける。
アキラも慣れたもので、そのくらいでは少しも恐れなど抱かない。
シキに関わってからはそれらの感情がどこかへといってしまった。
 「シキは俺が殺す。邪魔するなら……先にアキラから死んでもらうけど?」
アキラも日本刀を構え直す。
 「シキを殺すのは俺だ。いくらお前に理由があろうと、俺にだって譲れない理由はある!」
リンは無言で、軽々と日本刀を振り回す。
すっかり手に滲んでいる様子のその動きはシキにとてもよく似ていた。
 狩りは始まったばかりだ。

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 2015年 1月14日 莊野りず

『狩り』って聞いて、「アキリンで殺し愛」をやってみたくなったので、色々とルート改変しまくりのアキラVSリンifです。
シキルートの殺し愛エンドは何年後かはっきりしていなかったので、せっかくなので五年後リンにしました。
 個人的には友情以上の想いを抱いている(リンだけだろうけど)同士の殺伐とした殺し愛も、かなり燃えて萌えるんですが、皆様はいかがですか?
リンがシキみたいな恰好しててもそれはそれで器用な彼のことだから、上手く着こなしそうな気がする。



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