無分類30のお題 →TYPE1

17、型(シキリン)


剣道には様々な型というものがあるらしい――。
 幼いリンがそんな事を知ったのは、歳の離れた兄の影響が大きいだろう。
なにせ彼はリンくらいの年頃から始めた剣道を既に極めていたからだ。
 歳が離れていて、尚且つ典型的な甘え上手な弟のリンは、兄にとてもよく懐いていた。
 母親はあまりいい顔はしないが、彼女は彼女だし、自分は自分だという自我が芽生えていた。
 皿に剣の道を究めようと、二話先で木刀を振るう兄の姿を、リンはどこか自分の事のように誇らしげに眺めていた。
 弟が見ているにもかかわらず、シキは集中を失わない。
そこでさらにリンは兄を尊敬するという好循環が生まれていた。
ある日、リンは成長期真っ只中の兄に言い出した。
 「お兄ちゃん、僕にも剣道の型を教えて」
シキはその頃はまだ家族に何の違和感もなく解け込む器用さが残っていた。
しかし弟に対してはどこか冷めていた。
 「お前にはまだ早い」
そう無下もなくリンの願いを却下した。
 「お願い!僕も強くなりたい!」
そう縋るリンにシキは同じ返事しか返さない。
 少々兄への憧れが過ぎるが、リンはてっきり教えてもらえるものだとばかり思っていたので、軽くショックだった。
それから少しづつ、二人の間に溝が出来た。


 昔からへそ曲がりだったのかもしれないし、それはただの幼い反抗意識からだったのかもしれない。
リンは母親に頼み込んで、やっとの事で自分専用の木刀を手にした。
リンの家庭からしてみれば全然大した買い物ではなかったが、暴力沙汰が嫌いなリンの母親は最後まで渋った。
だが結果はリンの粘り勝ち。
 普段からの甘えた態度も買ってもらえた要因だったのかもしれない。
リンはさっそく庭で木刀を振り回した。
 木刀と同時に買ってもらった剣道の本の基本に倣い、リンはただ木刀を振った。
 思ったより上手くいかない。
 「……おかしいなぁ。ちゃんと書いてある通りにしてるのに」
 字はあまり読めなかったが、図に描かれている通りにしているつもりだ。
それなのに一向に上達の気配はない。
 実は文字の部分にコツが書かれているのだが、幼いリンには気づきようがない。
それを見かねてか、シキが庭に顔を出した。
 今日は珍しく木刀ではなく、難しそうな本を持って。
 「……それではダメだ」
シキなりのアドバイスのつもりだろう、リンはそう解釈した。
なにせ二人きりの兄弟なのだ。
 「どうダメなの?」
 「背筋が曲がっているし、何よりもっと握り込まなければ」
 具体的なアドバイスは素直にありがたい。
 実際に彼の言う通りにしてみると、今までのリンの練習はしょせんただのお遊びレベルだった。
 木刀を振り回すのがここまできついものだったとは思いもよらなかった。
シキが傍で読書しているが、彼を少々意識しつつ、木刀を振るう。
 夕方になる頃には、リンは全身を汗で濡らしていた。
 食事の後、リンはシキを呼び止めた。
 「明日も、練習見ててくれる?」
 「……気が向いたらな」
その返事で十分だった。
それからしばらく、リンはシキの指導により、あっという間に上達した。
その頃にはシキは就職、というか裏の社会に足を踏み入れていて、リンの上達を見ることは叶わなかった。
リンはそれを心底残念に思った。
 見ればきっと褒めてくれると思ったから。
シキはリンがある程度成長しても、純粋に尊敬する兄のままだった。


それからさらに数年後。
リンはそれまで夢中だった剣道を突然やめた。
ちょうどシキが剣道を極めていた歳になっても、リンは到底彼には届かなかった。
それが主な理由だった。
 代わりにリンが夢中になったのはBl@sterチーム戦。
 気心の知れた仲間と相手チームを再起不能に追い込むのが純粋に楽しくて仕方がなかった。
シキの事など忘れかけていた。
 彼は彼で闇稼業に精を出している事だし、自分は自分でここで騒いでいよう。
そうリンは決めた。
しかし兄弟の絆――そんなものはあったとは思わないが、それはリンを確実に蝕んだ。
 数年ぶりにリンはシキと再会した、偶然。
とりとめのない話、のはずだった。
ただ今現在の近況と星の話をしただけ。
それがチームの命とりだった。
 『星がよく見える場所』、そのヒントだけで、あっさりシキはペスカ・コシカの溜まり場を暴き出し、壊滅させたのだ。
もちろんシキにはたかが弱者を見逃すつもりなど毛頭なく、ほぼ全員が彼によって葬られた。
リンはその時出かけていた、それはシキなりの兄弟としての情けか?
もしそうだとしたら、そんなものなどいらなかった。
 仲間と共に殺されていた方がどれほど気が楽だったことか。
 残された仲間にも『裏切り者』扱いされ、リンの心はすり減り、疲弊していった。
それと比例して増していくのはシキへの憎しみや暗い執着といった、マイナスの感情。
やがてリンは誰に言うまでもなく、死街トシマへ向かった。


アキラと別れ、待たせていたシキの元へと向かった。
 「……やっぱりここか」
リンにはシキがここにいるという確信があった。
シキは日本刀を放り投げてきた。
それを何年かぶりに構えてみる。
 懐かしい木刀の感触とはまるで違う、重量が命を奪う道具であることを感じさせてくれる。
 雨を斬ってみて、薄く笑う。
シキも今度こそリンを認めたのだろう、興味の色が見え隠れする。
 「……はは、はははっ!」
これは狂気の笑みか、歓喜の微笑みか。
リン自身でも解らない。
 昔教わった型を思い出しながら、リンはシキに向かって飛びかかっていった。

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 2015年 1月25日 莊野りず

 かなり無理矢理こじつけた感のあるお題攻略でした。
 剣道って型とかありますよね?スポーツからっきし無知なのでその辺適当です。すみません。
 今回はリンとシキの話なのでアキラは名前しか出てきません。
でもむしろこれで正解かな?なんて思ってます。
たまには殺伐も書きたくなるんです。




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