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21、RPG(アキリン)


「ただいま」
アキラがバイトから帰ると、リンは狭いアパート内でテレビの画面に夢中だった。
どうやらアキラの帰宅にも気づいていない様子。
 何か面白い番組などやっていただろうか、と不審に思いながら、靴を脱ぐ。
 「おいリン、帰ったぞ」
リンはこちらを振り向きもしないで返事をした。
 「ああ、おかえり」と。
 何にそんなに夢中になっているのか。
 話はそこから始まる。


 「何やってるんだ?」
アキラはコートを脱ぎながら、リンのいるリビングの方を見た。
 彼はテレビとその手前にある機械に熱中しているようだ。
 「アキラは知らないかな〜?テレビゲーム」
 「テレビゲーム?」
 孤児院育ちと良家の子息の違いだろうか。
リンの言う「テレビゲーム」など聞いたこともない。
 上着を脱ぎ終えて、部屋着に着替えた後でリンのいるリビングに行ってみる。
そこにはリンとテレビと……全く見たことのない鼠色の機械があった。
 機械はケーブルでテレビに接続されている。
……リンには悪いが、全く面白そうには見えない。
 彼は刺激的な効果音と共に表示される、わけのわからない物体を睨みつけ、手元のコンパクトサイズの機械を操作している。
 「……何がそんなに面白いんだ?」
 「ん〜?やっぱストーリーとシステムかな。リアルでは絶対に味わえないワクワク感?みたいな。何なら一緒にやらない?」
リンは機械に繋がれているもう一つのコンパクトサイズの機械――コントローラーをアキラに手渡す。
 「いや、俺はこんなのやったことないし、どう操作すればいいのかもさっぱりだぞ?」
 「だいじょ〜ぶ。習うより慣れろ!だよ。俺が教えてやるからさ。……つか、アキラとこのゲームの話がしたいワケよ!」
リン曰く、発売日の前日からずっと並んで、やっと買えたらしい。
 貴重な給料をこんな無駄なものに使うなんて、アキラには考えられない。
 基本的な金銭感覚が違いすぎる。
そうぼやきたいのを我慢して、リンの言う通りにボタンとキーを操作していく。
 「……」
いつの間にか、すっかり熱中していた。
アキラが帰宅してから実に四時間が経過済み。
リンは目元を擦っている。
 「……アキラぁ、俺眠い」
 先に誘ったのはリンなのに、彼を差し置いてアキラはテレビ画面に釘付けになっていた。
 「先に誘たのはそっちだろ?攻略法教えろよ」
そう言ってリンの方など全く見ないアキラはすっかりゲームにハマったようだ。
こうなると手が付けられない。
リンも腹をくくって付き合うことにした。


いくらプレイ経験があるからと言って、全てを網羅しているわけではない。
 一晩中ぶっ続けでつき合わされ、リンの体力も気力もほぼ限界だ。
 「行ってきまぁす」
 弱弱しい声でそうアキラに呼びかけるも、彼は仲間になったモンスターの育成で忙しそうだ。
ここは黙って出勤するのが優しさだ。
そう思って、リンはアパートを後にした。


リンが出勤してから八時間後、つまり前日の分も入れると、アキラは十二時間もプレイしている事になる。
いくらなんでもそれはないだろう。
そう思っていたリンは甘かった。
 「……なにこれ?」
やっとの事でバイトを終えたリンを待っていたのは、ソリドの包み紙、それも数多い。
 確かにこのゲームは頭を使うし、その分腹も減るが、並大抵の量ではない。
どれだけ夢中なんだと、恐る恐るリビングに足を踏み入れる。
 「……あ、アキラ?」
 部屋の中にはピコピコというゲーム音とコントローラーのボタンをリズミカルに叩く音が響いている。
やっとひと段落したのか、アキラは振り返った。
 「ああ、おかえり」
そう言ったアキラの表情はどこか病的だった。
 典型的なゲーム廃人の顔。,br> 「やっと俺の子供が生まれたところで……なんて名前がいいと思う?」
 真剣なアキラだが、そもそも彼がこのゲームにのめり込んだのはリンが誘ったから。
ふらつきながら、アキラの傍に寄るリン。
そこには食べかけのソリドが置いてあって、リンはそれに足を取られ、滑って転んだ。
 徹夜明け独特の眩暈もした。
アキラはやっと元通りにリンを心配した。
だがしかし……。
リンの足がゲーム機のリセットボタンを押していた。
 「あ」
どちらともなく言った声。
やっとの事でアキラにもたれかかってくるリンと、セーブしていないで数時間プレイし続けたアキラ。
どちらも色んな意味で重症だ。
リンはアキラの胸元に甘えるように眠りにつくのだった。

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 2015年 1月25日 莊野りず

咎狗の世界にもテレビくらいはありますよね?
リンは実家にいた頃に格ゲーとかレーシング辺りをプレイしてたイメージ。
アキラは当然そんなの知らない(笑)。
 今回はゲーム廃人になるアキラが書けて満足です。
 何かに夢中になるアキラってちょっと想像し辛いし。



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