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25、夢中(カズリン)


「ほら、もう終わり?……でもなぁ」
 審判はとうにペスカ・コシカの勝利を告げていた。
それでもリンの暴走は止まらない。
 「俺はまだ足りないんだよぉ!」
 拳と足で相手を容赦なく潰す。
それがリンの信条であり、チームの信条。
しかし仲間たちは一向にやまないリンの一方的な暴力には畏怖の念を抱いて見ていた。
とてもではないがヘッド――リンの暴走は止められない。


リンの一方的な暴力によって、ペスカ・コシカはしばらくの出場停止処分になった。
 理由のある暴力を楽しめなくなった仲間たちに対しては、さすがのリンも詫びた。
 「そんなに気にするなよ」
 「その分、報復を楽しもうぜ」
 「あれでこそ俺らのヘッドだ!」
 仲間たちは次々にリンを慰めた、というより称賛した。
リンの強さは仲間たちの誇りであり目標でもあった。
その反応はむしろ当然と言えた。
だが一人、リンの事が心配でたまらない人物がいた。
リンの周りに群がるでもなく、かと言って遠巻きに見るわけでもない、青年――カズイだ。
 彼はBl@sterでの行き過ぎない程度の喧嘩は嫌いではないが、不必要な暴力は嫌っていた。
どちらが上か下かさエはっきりすればそれでいい程度の気持ちでBl@sterには参加している。
ただ暴力を楽しみたい他の連中とはそこが違った。
そして出来る事ならリンを暴力から遠ざけたい、とも考えていた。
ほんの少しでも他に夢中になれる物があればいい。
 問題はリンの興味を引くようなモノが何なのかという基準が解らない事だった。


 出場停止処分になって三日目。
 最初こそ報復に夢中になっていたが三日坊主という奴だろう、すぐに彼らは飽きた。
 新しい暴力の口実がないかとみんなが目をぎらつかせている。
そんな折、カズイはこの地域一帯が合同で祭りを開催するという話を耳にした。
リンはノリは良い方だし、断られる覚悟をして誘ってみよう。
カズイは近所で配られていたチラシをリンに見せた。
 「なにこれ?……エリアゴースト合同祭り?」
 「面白そうじゃないか?一緒に行こう。奢るから」
 普段はただ穏やかなカズイの顔がいつもとは違う笑い方をしている。
 何か企んでいることはすぐに解った。
しかしカズイと二人きりの祭、つまりデートも悪くない。
いや、むしろ望むところだ。
 「いいよ。言っとくけど俺、食いまくるから」
リンはわざと気づいていないフリをする。
 「そうか。ほら、俺一人だと男一人って事で周りから笑われそうで。その点、リンが一緒ならむしろ誇らしいっていうか……」
 確かに男一人での祭参加は虚しいよな、なんて思ったが、最後の方はどういう意味だろう。
 考える間を与えずにカズイは畳みかける。
 「じゃあ明日の午後六時に公園で待ってるから」
 「あ、ああ」
 何やらカズイは機嫌がよさそうだったので言及するのはやめた。


 翌日の夜六時、十分ほど早く着くように向かったつもりが、先にカズイが着いていた。
 彼はベンチに座って表紙に星の写真が載った本を夢中で読んでいる。
 声を掛けようかと思ったが、時間より早く着くのは楽しみにいしていたと思われてしまう。
なのでワザと十分遅刻した。
 「……待った?」
カズイは本にしおりを挟んで閉じながら笑顔で言った。
 「全然」
 今日のカズイは和服を着ている。
リンはいつも通りの格好。
 「リンもこういうの着てくればよかったのに。祭りの気分が出ないだろ?」
 本当はそうしようと思っていたが、はしゃいでいるようでみっともないと思ってやめたのだ。
 「別に。俺の楽しみは出店だし。物食う時にそんなカッコじゃ邪魔じゃん」
 「祭りを楽しむ気満々だな。じゃあ行こうか」
カズイは手を伸ばした。
エスコートでもするつもりだろうか、お互い男なのに。
でも今日は祭りだし来客数も多いだろう。
それに何よりせっかくのデートだ。
 例えカズイがそう思っていなくてもリン的にはデートで間違いない。
そう自分を納得させて、カズイの手を握った。


リンは最初に宣言した通り、食べ物屋を見かけるたびにカズイにねだって買ってもらった。
 常に両手には食べ物、時には酒があったりもした。
 特設ステージでは大物アーティストのライブも行われていて、これには時間を忘れて楽しんだ。
ちらりと見上げるようにカズイを見ると、彼も楽しそうに手を叩いている。
 最後の花火に間に合うように大量の食べ物を買い込み、花火がよく見えそうな場所へと向かった。
あと十分で花火が始まる。
リンは大量に買い込んだ食べ物を夢中で食べる。
 自覚なしにリンは大いにこの祭りに夢中になっていた。
そんなリンを見てカズイは思わず吹き出す。
 「……何がおかしいんだよ?」
 「だって……今のリンはまるで子供だ」
 「誰が子供だって?」
ハムスターのように頬にタコ焼きを頬張りながら凄んで見せても、説得力がない。
 「ほら、花火始まったぞ」
 空に上がった無数の花火。
その輝きに二人はそろって魅入られた。

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 2015年 2月4日 莊野りず

 カズリン祭りデートです。誘ったのはカズイだから、カズリン表記で間違いないですよね?
リンは『痩せの大食い』タイプだと思います。肉類は太りやすいのに痩せてるし。
 実家が豪華な食事だたからチープな味が好きなのかもしれない。やべ、想像したら萌えてきた(笑)。



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