無分類30のお題 →TYPE1

26、おちる(源リン)


「シキィ!今日こそはアンタを殺す!」
リンが叫ぶ。
今日のフィールドは弾劾された高速道路跡。
シキの死に場所にはぴったっりだとリンは思う。
「……愚かだな。むしろお前はこんな粗末な場所で死にたいのか?」
シキは鼻で笑う。
「やってみなきゃわかんないだろォッ!」
リンが勢いよく飛びかかる。
いつもリンの攻め方はこれだ。
少しは学習しないのかとシキは内心呆れる。
しかし命をかけて挑んでくるたった一人の弟相手に手加減など失礼なだけだ。
シキはシキなりの敬意を持ってリンの殺意を受け止める。
スティレットを両手に逆手に構え、急所だけを狙ってくる。
「狙いはいいが、外してばかりでは意味がないぞ」
日本刀ですべての攻撃を弾き飛ばしながらシキは笑う。
興味が全くないわけではない。
何しろたった一人の肉親だ。
情がないわけじゃない。
何しろ昔は後をついてくる可愛い弟だったから。
「うるさい!黙れよ!」
もう動きが乱れて、攻撃も滅茶苦茶だ。
これでは喧嘩にすらなっていない。
シキは下がトタン屋根の残骸だと確かめると、日本刀でリンの身体ごとスティレットでの攻撃を弾いた。
「うわぁっ!ああっ!」
リンはあっさりとおちる。
その後の事は一切関知するつもりがないシキは、そのままその場を立ち去った。
また弟が自分を殺しに来るその日を、密かに楽しみにして。


源泉は上機嫌だった。
ENEDやニコルのデーターをアルビトロの城に入ることなく入手できたのだ。
「いやー楽勝楽勝。いつも仕事がこんだけ楽ならいいんだがな」
独り言を言って、歌でも歌いたいくらいの気分だった。
そこに何やら音がした。
軽い金属の板数枚に何かがぶつかるような、そんな音が。
「あっ、オッサン!どいてどいて!」
「なぬ!?」
空からリンが降ってきた。
一体どうしてこんな事になったのか聞きたかったが、状況が状況だ、考えている時間などない。
しかしその間に既にリンは源泉の上へと落下した。
いてて……と身体を起こすリン。
その下敷きとなった源泉はボロ資材に埋もれて元々埃っぽい服がますます古ぼけて見える。
「どうしたんだ?最近見ないと思ったら……いや、その前にどいてくれんか?いくらお前さんでも流石に重い」
「あっ、ああ、ゴメン」
リンは猫を思わせる柔軟な仕草で姿勢を正した。


「……それで、何があったんだ?」
タバコを咥え、一服した源泉は叱りつけるような目でリンを見た。
「別に。なんでもない」
不機嫌を全く隠そうとしないリン。
せっかく助けたのに、助け甲斐のない奴だと源泉は内心で思う。
「お前さんは最近妙に焦ってるな。……オイチャンはもちっと余裕を持てばいいと思うぞ」
「……オッサンに何が解るんだよ。俺の事なんか何も知らないくせに!」
リンは激昂した。
秘めていた感情が爆発したと言ってもいい。
普段は明るいムードメイカーなのに、この冷たい目はどうだ。
内に熱いものを秘めていたのだ。
源泉は落ち着くまでは何を言っても無駄だと悟り、リンの全身を見た。
よく見ると小さな木片が膝小僧のところに食い込んでいる。
「……リン、怪我の手当てをしないと。化膿でもしたら大変だ」
「構うなよ!」
リンの一方的な不機嫌にいい加減に腹が立った。
なぜちゃんと五体満足で生きているのに無茶ばかりするのか。
息子だって生きていたらこの年頃だったはずだ。
そう思うと命を粗末にしているとしか思えないリンの行為には腹が立った。
「未熟なガキの面倒を大人が見て何が悪い!」
初めて源泉はリンに向かって怒鳴りつけていた。
リンは源泉の変化に戸惑っている。
数秒後にはいつもの調子に戻った源泉だが、今更これまで通りにはいかない。
「怪我、見せろ」
リンは無言で怪我をした左足を源泉に見せる。
「……こりゃ酷いな。痛かっただろ?」
「……」
リンは何も言わず、黙って源泉の手当てを受けている。
十分ほどして手当てが済んだ。
「もう大丈夫だ。でも無茶はするなよ?」
それでも黙ったままのリン。
もう前までの関係には戻れないのかと源泉は諦めかけたが、リンは小さな声で言った。
「……ありがとう」
根は素直なのだ、きっと。
今は何かの理由があるに違いない。
源泉は一人でそう納得して、リンの頭をわしゃわしゃと撫でつけた。
「なにすんだよ、オッサン!」
その意気だと源泉は思った。
「子供へのおしおき。お前さんも十分ほっとけないな」
源泉の言葉に少し感謝の色が見えたのは源泉のみ間違いではないのだろう。


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2014年 月日 莊野りず

シキリンと見せかけて源リンです。空から男の子が降ってきたっていいじゃない的な気分で書きました。
フィールドはアニメ版を想像していただければいいかと。
『おちる』ってお題で源リンに行っちゃうあたり、私はどこかおかしいのかもしれない。



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