無分類30のお題 →TYPE1

29、裏


  

「あっ!」
リンの持っていた写真の束が、彼の手から滑り落ちる。
ゴムで纏めていたわけでもないそれらはヒラヒラと舞って床にばらける。
「あーあ、やっちゃったよ」
リンが下を向いて写真を拾い集める。
それを手伝うケイスケにつられて、アキラも写真を拾う。
その中に一枚、ピンボケしたような黒い写真があった。
「!?」
リンはそれに気づくと、素早くアキラから写真を奪い取った。
冷たい、冷気すら感じさせる瞳で。
だが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「……こんな写真なんて見てもつまんないでしょ?」
そう言って笑う彼は、どこか作り物のような笑いで、アキラの心に深く残った。



何度考えても、リンのあの冷たい表情には何かあるとしか思えない。
ソリドを齧りつつ、ホテルで身体を休めていても、考えるのはリンのあの表情のみ。
冷たい憎悪を感じさせるあの表情は一体何なのだろう。
そして、あの写真の男もなにかしら関係しているとしか思えない。
あれがいつも笑顔のリンの本性だと思うと恐ろしい。
自分で言うだけあって、多分リンは相当な実力者なのだろう。
気前よく水とソリドをアキラたちに奢れるだけのタグを持っている時点でそれは間違いない。
今は共にケイスケを探してくれているが、いつ本性を現すかなど、解ったモノではない。
リンに気を許さないよう、アキラは自分を戒める。


「アキラァ、おはよう!」
いつの間にか寝入ってしまっていたらしいアキラは、元気のいいリンの声によって目覚めた。
いつもの夢は今日は見なかった。
それだけ疲れ果てているのだろう。
「ああ、おはよう」
目をこすりながら身体を起こすと、リンが申し訳なさそうに言った。
「ゴメン。未だにケイスケが見つかんない」
「いや、お前が謝る事じゃないだろ?」
そもそもケイスケが出ていた原因は自分だと、アキラ自身はっきりと自覚している。
リンはそれでも悪い事をした子供のように困った顔のままだ。
あの時の瞳とは大違いなほどに落ち込んでいる。
これがリンの本性なのか、それとも写真の男絡みが本性なのか。
訊くのはかなり躊躇われた。
「俺的には北地区辺りで情報集めがいいと思うんだけど、どう?」
「それはいいかもしれないな。案内してくれるのか?」
「当然でしょ?だって俺、アキラの事好きだもん!」
そう言って腕を絡ませてくるリンには邪気は全くない。
一体このリンはどんな人間なのか。
二人でソリドを食べた後に、北地区へと向かった。


そこには古びた映画館があった。
人気もそれなりに多い。
ここならばそれなりに情報は入るだろう。
そこへオレンジ頭の青年がリンに近づいてきた。
「よう、リンじゃねーか。元気そうで何より……ああ、もう新しい男作ってんの?相変わらずお盛んなこって」
男は愉快そうに、尚且つ興味津々という目でアキラを見た。
男とリンがどんな関係か解らない以上、下手兄口出しするべきではない。
アキラが無言でいることにつまらなさを覚えたのか、男はリンに向き直る。
「ぞくっとするほど似てんなぁ。カズイの代用品、ってとこか?」
「……それ以上言ったら――」
「東でシキが出た!」
言葉を遮って、新しくこの場に乱入してきた若い男が叫ぶ。
リンはアキラの事など忘れたかのように、その場から急いで走っていく。
残されたアキラには事情が呑み込めない。
流石に同乗したのか、オレンジ頭は説明してくれた。
「リンはいつも仕切って単語に敏感なんだ。アイツと付き合うなら、それなりの覚悟がいるぜ?」
「アンタに言われるまでもない」
アキラはリンを追って東へ向かった。
自分でもここまで彼を気にかける理由が解らなかった。
ただ、あの写真の男と関係があるのではないかと確信した。


あれから紆余曲折、とまではいかないが、アキラもリンも互いに弱り切った時の事だ。
リンはアキラとケイスケのタグを奪おうと、襲い掛かってきた。
反撃せずにいる方が難しい極限状態で、アキラはリンの腿にナイフを刺した。
その傷が原因でリンは弱り切り、怪我人だというのに無理をして部屋から出ようとした。
何とか癇癪は治まり、リンイグラに参加した理由のさらに根本をやっと話してくれた。
「……兄貴は昔から強かった。俺はずっとそれに憧れてて、あんな風になりたいって思ってた」
養子制度で無理やり家族になったアキラには、リンの葛藤など想像しか出来ない。
それでもリンはリンなりに、兄に憧れていたのだろう。
それを、彼の兄は最も残酷な形で裏切ったのだ。
さぞかし傷ついた事だろう。
今こうして話すのもきっと辛いに違いない。
リンという少年はいつもコインの裏表のようで、いつの間にかアキラにとって放ってはおけない存在として映りだした。
裏があっても、リンはリンだ。
先ほどまでそうしていたように、アキラは緩慢な動きしか出来ないリンに優しくキスした。
彼は戸惑っていたようだったが、自分を受け入れられた悦びが勝ったのか、無抵抗で笑った。
……後にリンはアキラのタグを奪って城へと向かう。
彼なりに決着をつけるために。




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2015年 2月27日 莊野りず

アキリンでした。
どうしても「コインの表と裏」という単語が入れたかっただけです。
色々とすみません。
最近は色々と省略が多い気がしますが、あまり気にしないでくださいね。





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