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30、天使と悪魔




リンは物心ついた頃から、周囲から「天使のようだ」と言われて育った。
笑顔が天使のように愛らしい。
素直な性格が天使の純粋さ。
あどけない寝顔はまさに天使。
……言われ放題だった。
当時のリンもリンで、覚えたばかりの『天使』という言葉を誤った認識で使っていた、脳内変換していた。
――俺は天使なんだ、偉いんだ。だから何をしてもいいし、俺にはその権利があるんだ。
そんな歪で幼稚な思考は、数年ぶりに再会した兄によっていともたやすく否定された。


リンにとって兄であるシキは絶対の存在だった。
高すぎる目標であり、憧れ。
彼がリンに与えた影響は計り知れない。
思えばリンの性格はおろか、基本的な価値観、考え方までも、全ては兄の真似、トレースだった。
そんなシキの言葉はリンにとっては絶大な威力があった。
「お前はまだ解ってはいない。……お前自身の事も、その価値も」
「……どういう意味?」
シキは椅子に腰かけ、腕を組む。
皮張りの椅子がぎしと鳴る。
「天使など甘い存在に堕ちるな。お前は天使などというちっぽけな器ではない。もっと大きく羽ばたくことが出来る。……なぜなら、お前は俺の弟なのだから」
この頃から既にシキはカリスマ性で、実父すらもとうに超えていた。
そんな大物であるシキの言葉は、リンの脳に強い刺激を与える。
――そうだ、そうなんだ。俺はこの兄貴、シキのただ一人の弟。腹違いとはいえ血は繋がっている。
感銘を受けるリンにシキは更に続ける。
「……お前は天使ではない。むしろ悪魔の器だ。男を誘惑しろ、そして堕落させろ。お前にはその才能も能力もある。俺の役に立て。――出来るだろう?」
――期待されている、あの誰もが認めるシキに、兄貴に。
その事実は酷く残酷に、甘美に響いた。
――才能も、能力もある。
リンが一人で納得していると、畳みかけるようにシキは言う。
相変わらずの硬質の声で。
「俺はこの国の王となり、この小さな島国をもっと強力に、強大にしてみせる。そのためならば、愛する弟も進んで役に立ってくれるだろう?」
「……もちろんだよ、兄貴」
そう返したリンの笑顔には、既に天使の面影は消え去った後だった。
そこにあったのは狡猾な悪魔そのものの顔。
シキは満足げに笑う。
「……良い子だ。それでは、どうやって落とすのか、手管を伝授してやろう。服を脱げ」
リンは素直に服を脱ぐ。
その動きには一切の躊躇いもない。
成長期特有の発展途上の身体、天使のようだと賞賛された、整ったラインはシキすら密かに魅了した。
「これでいい?兄貴?」
そう言って、リンは微笑む。


……こうしてかつての天使は今や悪魔と変貌したのだった。




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2015年 7月24日 莊野りず

天使と悪魔のお題だけはブラマト向きでしたね。
リンはぶっちゃけ天使と悪魔の二面性があると思う。
そこがまた魅力なんですけどね。





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