悲恋系15のお題 レイジナ・アベレア中心で攻略

15、これが、最後(アベレア)


幽葬の地下通路に残すものはもう何もない。
レアは素早く身支度を整えると、使っていた場所を綺麗に掃除した。
 誰もが忘れ去っている場所だが一度利用した者としては跡を濁さずに去りたい。
 「何をしているんだ?さっさと行くぞ」
アベルがイライラしたような声で言う。
 怒鳴らないのは自分たちの一を誰かに悟られないためだろう。
 「もうすぐ終わります。もうしばらく待っていただけませんか?」
レアの声音に不機嫌そうにしながらも、アベルは「早くしろ」とだけ言った。


 幽葬の地下通路にもだいぶ世話になった。
レアは名残惜しそうに今までいた場所を振り返っている。
 対照的にアベルは前だけを見ている。
――この方には過去なんて関係ないんだ。
 足早に歩くアベルについていくのがやっとだ。
 足場の悪い場所なので、何度も転びそうになる。
その度にアベルに助け起こされている。
 「はぐれるな。お前がいないと色々と面倒だ」
 態度はぶっきらぼうだが、優しさが滲み出ていて、レアはやはり彼と一緒にいてよかったと思える。
 「すみません」
 差し出される手に、レアは嬉しくて笑う。
 「……何をニヤニヤしてるんだ?ぼんやりしていると置いて行くぞ」
この顔はニヤニヤして見えるのだろうか。
 確認しようにも鏡がないので確かめようがない。
レアはアベルの手を取るとゆっくり立ち上がる。
――こんな時間がずっと続けばいいのに。
 勿論そんな願いが叶わないのは十分に解っている。
インセストであるレアの身体は散々蝕まれており、寿命もあとわずかだという自覚もある。
 最期の時までアベルと一緒にいる――それだけが今のレアの願いだった。
 「出口だ」
アベルが光の差す方へと向かい、レアの手を引く。
――もっと長い道のりならよかったのに。
レアは残念でならない。
 着いてしまったものは仕方がないので、素直にアベルの手につかまって地上へと出た。


 久しぶりの地上は空気が綺麗で、思わず深呼吸をした。
 出口の周りには緑が溢れ、豊かな実りが暗所にいた目には眩しい。
 「太陽が眩しいですね!」
 思わずそんなことを口走っていた。
 暗に暗くてジメジメした地下通路にいたことを愚痴っているように聞こえたかもしれない。
 思わずレアは口元に手を当てたが、アベルが気を悪くした様子はない。
 「……お前はずっと地下にいたからな。日の光が懐かしいだろう」
 優しい声だった。
あのアベルがこんなに優しい声を出すなんて意外だ。
こらえきれずにレアが笑うと、アベルは明らかに気分を害したようだった。
 「何を笑っている?」
 「すみません。嬉しくて」
ただの一介のインセストである自分に、優しい言葉をかけてくれる者など誰もいなかった。
だからこの飾り気のない、アベルの不器用な優しさが嬉しい。
 思わず涙が得てきた。
これにはさすがにアベルも驚いた。
 「おっ、おい……」
 「すみません、すみません……。嬉しくて」
レアが涙を拭う間、アベルはただ黙ってそばにいてくれた。
――でもこれが、最後。
アベルの顔を見上げる。
――これで最後なんですよね?
キボートス島に着いたら、こんな些細なやり取りもなくなってしまうかもしれない。
そんなレアの心情を読んだアベルは柄にもなく優しく微笑んだ。
 「大丈夫だ。オレはお前を捨てない。見捨てない」
それが心からの言葉ということはレアにはよく解った。
 「……本当ですよ?忘れたら、怒りますからね?」
しかし心から怒るということはない。
だからといって約束を破るようなアベルではない。
この二人の絆は既に強固なものとなっている。
 「オレの目的を果たしたらお前はどうなるんだろうな」
このアベルの呟きはレアの耳に届かないよう、弱弱しいものだった。


カインとアベルの決着まで、あと少し。

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 2014年 4月11日 莊野りず

当サイト比一ミリ進展くらいのアベレアでした。
 甘々にしようにもこのお題だと全く甘くならない(泣)。アベルのツンデレにも困ったものです。
アベルが積極的に動く話って難しい。一ミリ進んでもやっぱりうちのアベルとレアはこんなんです。



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