恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

み 魅惑


  

彼でも彼女でもない。
性別のない天使は力天使レッドムフロンの副官に収まっている。
その副官の名はグリシナという。


グリシナはいつも着飾る事を忘れない。
教団一の美貌の持ち主だ。
生真面目なルビエルには毎回眉を顰められるが、挑発的な服を着ることはやめられない。
他の何を犠牲にしようと、これだけは譲れないのだ。
グリシナが思いを寄せる相手は鈍いから、これくらいはしないと見向きもされないから。
上司のレッドムフロンを待っていたグリシナは、真っ先に部屋を出てきたのがベイルだと知って密かに喜んだ。
「六翼様はお仕事が楽なようで」
「お前はその恰好をどうにかしろ。仮にも十神将の配下だろう?」
グリシナの皮肉も軽く受け流して、カルディアを伴いその場を去っていくベイルにいら立ちを隠せずにいると、上司のレッドムフロンが出てきた。
「お前を待たせてしまって悪かった。早く執務室に戻ってその美しさを存分に見せてくれ」
レッドムフロンの表情は明るく、今日の会議は上手く行った事が容易に想像できる。
「……それは、よかったですね」
グリシナの気のない返事に彼は少年のようにしゅんとなった。


そんな事はいつもの事だった。
レッドムフロンが自分を崇めるのも、ベイルがつれなくするのも、いつもの事。
ベイルの事は諦めるしかないのか、そんな風に弱気になっていた時、同僚のリプサリスが書類を会議室に運ぶところを見た。
「リプサリス、大丈夫ですか?手伝いましょうか?」
彼女の上司のルビエルは苦手だが、この少女は不思議と平気だ。
盲目という規格外の烙印を押されているため、性別のない自分のコンプレックスを刺激することもない。
「……いいのですか?重いですよ」
「貴女よりは力はありますよ。力天使の副官ですよ?」
「では、お言葉に甘えて」
会議室では教団内の風紀についてルビエルが持論を述べている所だった。
それに頷くテリオスや、上の空のレッドムフロン、まるで興味がなさそうなホワイトフェイスといった面々が顔を合わせていた。
「ルビエル様、例の書類です」
リプサリスはルビエルに書類を手渡す。
こころなしかルビエルの表情が緩む。
「ありがとう。お前はもう下がっていい。グリシナは手伝いか?」
「あ、はい」
「ご苦労。リプサリス共々礼を言うぞ」
てっきり嫌われていると思っていたルビエルからねぎらいの言葉をもらい、グリシナは驚いた。
部屋の外に出るとリプサリスが微笑んで話してくれた。
「ルビエル様は決まり事には厳格ですが、それを遵守する者には優しいのですよ」
それで合点がいった。
グリシナは派手な格好ばかりしているから目をつけられるのだ。
「……それから、殿方というのは特別な日に自分だけのための装いに弱いらしいですよ」
どこでそんな情報を仕入れてくるのか、大いに疑問だが、リプサリスはグリシナの恋心に気づいているようだった。
「なぜ私の想い人が解ったのです?」
リプサリスは感情の読めない笑顔で言った。
「声の調子でですよ」


ベイルが悪魔討伐に出かける事になった。
これはチャンスだと考えたグリシナは、散々迷った挙句にいつもの派手な服ではなくシンプルなオレンジのカクテルドレスを着た。
レッドムフロンはすっかりご満悦で、いつもの三倍増しで美しいと絶賛した。
グリシナは彼にそんな事を言ってもらいたいわけではない。
ベイルに言ってもらわなければ意味がないのだ。
ベイルの出立にはテリオスとルビエルが立ち会った。
そこにこっそり混ざるようにグリシナは顔を出した。
それに気づいたベイルがグリシナの方へ向かってくる。
――今日こそ私に美しいと言ってくれるのか。
そう期待したが、所詮は鈍い男。
「風邪をひくぞ。いつもの格好の方がお前らしくていい」
そう言って上着をかけて、そのまま行ってしまう。
残されたグリシナは気遣いは嬉しかったが、朴念仁のベイルを内心で罵るのだった。




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2015年 2月27日 莊野りず

確かグリシナは公式で美人設定だったはずなのに、それを絶賛するのはレッドムフロンしかいない現実(笑)。
片思い萌えなので、グリシナ→ベイルも書いてて楽しい。大概はオチで報われずに終わるのは仕様です。
法天使コンビの出現率の高さも仕様です。





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