恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

を、ヲトメ(ヴィディア→レイジ)




再会した時には夢かと思った。
だって、確かに彼は胸を槍で貫かれて死んだのだから。
魔王の血族は復活するという話を信じていなかったわけじゃない。
ただ、ただ、不安だった。
それでも、レイジは生きている。
ヴィディアにはそれだけで嬉しかった。


復活したレイジは、全ての記憶を失っていた。
あれだけ恋い焦がれたジーナローズの事さえも覚えてはいなかった。
ただし身体が戦い方だけは覚えているようで、人間軍と戦う分には困らなかった。
弱っているのはしょうがない。
なにせ復活したばかりなのだから。
ギルヴァイスはショックを受けていたし、ヴィディア自身も忘れられているのは悲しかった。
しかしこれはある意味チャンスだ。
今のレイジならば自分を見てくれるかもしれない。
そこまで考えて、彼女ははっとした。
……なんという不謹慎な事を考えるのだ。
レイジは記憶がなくて大変な思いをしているというのに。
でも以前とは違った優しく穏やかなレイジに心を打たれるのも事実で、その度に恋心は肥大していった。
いっそ記憶など戻らなければいいのに。


魔界各地を回るたびに、レイジは何かを思い出しているようだった。
十中八九、ジーナローズの事だと思った。
実際に彼女と何かあったのかを頻繁に訊いてきた。
ヴィディアもギルヴァイスも真剣に説明した。
ギルヴァイスは本当に記憶を取り戻してほしいと思っているようだが、ヴィディアは違った。
ジーナローズの事を口にするだけで、胸が苦しい。
嫉妬が醜く胸を埋め尽くす。
多くを望んではいけない、ただレイジのそばにいられるだけでいいのだと、自分に言い聞かせる。
「ヴィディア」
優しく自分の名を呼ぶレイジを失いたくない。
昔のレイジにはもう戻ってほしくない。
やや頼りない今のレイジの背中を守るのは自分一人で十分だ。
ヴィディアはそう思って、ずっとレイジの背中を守って戦い続けた。


魔王城を奪還し、いよいよジーナローズ復活の儀式の準備が整ってしまった。
レイジに復活の手順を説明すると、その場にいるのに耐えられなくなった。
気づくとレイジと最後に別れた廊下にいた。
「なんだ……結局ここに戻ってきちゃうんじゃない。あたしったら」
ヴィディアは自嘲する。
そこに足音を鳴らし、レイジが追いかけてきた。
「どうしたんだヴィディア?何で消えちゃうんだよ?」
心配するようなレイジの声は相変わらず優しい。
しかし今この場では最も聞きたくなかった。
「ジーナローズ様に会うからよ」
「ジーナローズに会うことがそんなに辛いのか?」
ヴィディアは、唇を噛んでレイジを睨みつける。
「本当に鈍いんだから!あたしがどれだけ貴方の事が好きか考えたことあるの!?」
思わず告白していた。
レイジは驚きを隠せない。
「あたしは貴方が記憶をなくす前からずっと、ずっとあなただけを想ってきた!けど一度も振り向いたことないじゃない!」
泣けてくる。
なぜレイジは自分にここまで言わせるのか。
波dが溢れて止まらない、どうしよう。
「ヴィディア、ありがとう」
ヴィディアの目元の涙を指で掬って、レイジは微笑んだ。
「君の気持ちは今やっと解った。……俺もヴィディアのことが好きだ」
そのお言葉が信じられない。
思わず言い返す。
「そんなの嘘よ!」
再びあふれる涙。
止まらない、止められない。
「こんな事で嘘ついてどうする?」
本当だと思えた。
あれだけ遠かったレイジが、今は目の前にいる。
「けど、ジーナローズは復活させなければいけない。それは解るだろ?」
「……うん。あたし、レイジを信じる。ジーナローズ様に会っても、あたしの事を想ってくれてるって信じるから」
ずっと見つめてきたレイジが振り向いた。
一途な片思いを続けてきたヴィディアは間違いなくヲトメ。
きっとこれから先もレイジの事を想って生きていくのだろう。





__________________________________
2015年 8月4日 莊野りず

『ヲトメ』候補はヴィディアの他にレアもいたんですが、『乙女』ならともかく「ヲトメ」とはちょっと違うな、という事でヴィディアになりました。
彼女も十分ヲトメですよね。幼馴染ポジションだし。
たまにはシスコンじゃないレイジも書きたくなるんです(笑)。



inserted by FC2 system