素直になれない10のお題 カズリン(リン→カズイ)で攻略

6.ジレンマ


今日はカズイの誕生日らしい。
Bl@sterのチーム戦優勝者のペスカコシカは今日の打ち上げを『カズイの誕生日会』としていた。
その方が盛り上がるから。


 「今日も楽勝だな!やっぱ俺らより強いチームなんてねーよ」
Bl@sterの試合が終わると、トモユキは鼻歌を歌いながら歩いている。
その隣を歩くリンはカズイの元へ戻るのが楽しみだった。
ペスカコシカの試合はただBl@sterで勝つだけではない。
 逆らってきたチームに報復を行うまでが一試合なのだ。


 溜まり場に戻ったリンとトモユキを迎えるのは酒を楽しみにしている連中だ。
 「トモユキー酒買ってきたか?」
 「今日もシュクハイってやつを上げようぜ!」
やっぱり。
 誰もカズイの誕生日を覚えてはいない。
リンと違い、皆は施設から今の家庭に引き取られた子どもばかりだ。
だがカズイはリンと同じく珍しい実子だった。
それでリンはカズイの誕生日を知っているのだ。
 部屋の奥にある彼の部屋に行こうと、酒をトモユキに任せて奥へ向かう。


 「カズイ」
カズイが使っている部屋には大量の本があって、暇な時はいつも彼は本を読んでいる。
その本から目線をこちらに寄越した。
 「おかえり、リン。今日は早かったな」
 本のページに栞を挟んで、カズイは向き直る。
 「まあな。ところで今日……誕生日だろ?もう皆集まってる」
 「誕生日……ああ。別に俺の事は気にしないでいいよ」
 「そんな事言って。俺の誕生日の時にはケーキまで買ってきたくせに」
 去年、カズイがリンの誕生日祝いをしようと言い出したときには凄かったのだ。
 酒も料理も、大きなバースデーケーキも全て用意されていた。
あの時は嬉しさを通り越して呆れたものだ。
 「だってリンは頭だろ?リンと俺とじゃ扱いが違って当たり前」
 確かにやりすぎだったかも、という複雑な顔をしながらカズイは反論しようとした。
 「俺から見ればNO2も重要なんだよ。いいから行くぞ」
そういってリンはカズイを引きずって来た道を戻っていった。


 「カズイ!誕生日オメ!」
 「今日は飲めよ〜」
 「酔っ払っちまったら俺が介抱してやるよ」
 「うげーそれサイアクじゃねー」
 大広間に戻ると、既に何人も出来上がっていた。
リンが大きな溜め息を着いても、誰も気にしない。
 「……こんなことだろうと思ったよ」
カズイは冷蔵庫から水を出すと、彼らに渡す。
 「カズイも飲めよ」
トモユキはカズイが素面なのが気に入らないらしく、しきりに酒を勧める。
 「いい加減にしろ。今日はカズイの誕生日なんだよ。今日くらいカズイの好きにさせろよ」
その言葉にトモユキがゆらりと立ち上がる。
 「あれーそんな事言っちゃって。ひょっとしてリンってカズイが好きなんじゃねぇの?」
 「!?」
 幸いここには酔っ払いしかいない。
けれどカズイは素面だ。
 「……んなわけ、ねーだろ」
ジレンマで一杯になりながら、ただそれだけを答えた。

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 2012年 7月21日 荘野りず

 ジレンマ……ジレンマ……辞書で調べながら四苦八苦。
 本当はシキリン短編お題とリンクさせようとして失敗したやつです。



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