素直になれない10のお題 カズリン(リン→カズイ)で攻略

8、たった一言


最強・最凶のチーム、ペスカ・コシカ。
そのNO2は意外なほど穏やかな青年だった。


リンは星を見るのが好きだ。
だからカズイの探してくる溜まり場はどこも星が良く見える場所にある。
 「カズイも星が好きなのか?」
ある日リンはカズイに訊ねてみた。
カズイは頷いて笑った。
 「宇宙飛行士になりたいんだ。……子供みたいだろ?」
その時のカズイの表情が眩しくて、リンはしばし見とれた。
――いつも大人っぽいくせに今の顔は反則だ。
 「ふーん。子供っぽい」
なんとも思っていないように返しても、本心は羨ましかった。
カズイと違って自分は今のことしか考えられない。
なんだ結局子供なのは自分の方じゃないか。
 「リンは?」
 反撃とばかりにカズイが口を開いた。
 「は?」
 「何かやりたい事とか、なりたいものとかないのか?」
カズイにそう言われても思いつく事といったら、記憶の底に埋まっている兄の事だけだった。
 「俺は……なんだろうな」
リンの記憶が確かならば幼い頃から憧れ続けた兄は裏社会で何かの組織に雇われているはずだ。
 彼によって闇に葬られたチームの噂を耳にした事がある。
だがそれは裏に首を突っ込みすぎた馬鹿の話だ。
うちのチームは大丈夫だ。
 「なら俺と一緒に宇宙に行かないか?」
 思いもよらないカズイからの誘いに嬉しくなる。
 『ああ、勿論一緒に行く』
そう言いたかった。
だが口をついて出たのは。
 「ああ考えとく」
しかも、ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
それでもカズイはいつもの様に穏やかに笑った。


それからもペスカ・コシカは波に乗っていた。
Bl@sterにおいては連戦連勝、負け知らず。
 敵対したチームには徹底的に報復を行い、潰す。
リンはそれが楽しかった。
カズイは報復には参加しなかったし、いい顔もしなかった。
 仲間の中にはそれを不服に思う者も沢山いた。
トモユキもそうだった。
 「報復に参加しないならペスカ・コシカやめちまえ!」
いきなりそう言い出して困った事もあった。
その時はヒヤヒヤしたが、リン自身もそう思う事があった。
ペスカ・コシカをやめて欲しかったわけではないが、やはりカズイがいた方が時間も短縮できる。
 何よりカズイがいるのといないのとでは安心感が違う。
トモユキもある程度は強かったが、カズイには及ばない。
 「俺はBl@ster以外での不用意な喧嘩はしない」
その一言に不思議と納得した。
カズイは宇宙飛行士になりたいのだ、自分たちとは違って将来の夢もある。
 「……もういいだろ」


もう何度目か解らない、Bl@sterで勝利した夜。
 俺はカズイを誘って星を見に来ていた。
カズイにしては珍しく、子供のような笑いをこらえている。
 「どうしたんだ?」
 不審に思って聞くと嬉しそうにカズイは言った。
 「お前の事、宇宙に連れて行ってやれそうだ」
 今日は星が綺麗だった。
 「……それって」
 「宇宙飛行士の訓練が受けられるようになったんだ。これでも頑張って勉強してたんだぞ?」
カズイが笑う。
けど、俺はこれ以上カズイに遠くに言って欲しくなくて。
だから言えなかった、『良かったな』なんて言えなかった。
その数日後、ペスカコシカの溜まり場が暴かれ、チームの連中が殺されるなんて。


トシマで夜空に散る星星を見つめるたびに思う。
どうして言えなかった?
たった一言、『おめでとう』と。

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 2012年 7月日 荘野りず

漫画版をちょっとMIX。
カズイを書くのは難しいです。



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