素直になれない10のお題 カズリン(リン→カズイ)で攻略

9、偽りの仮面


リンは他の皆に対しては言いたいことを言う。
でも俺にだけは本音を打ち明けてくれない。
もしかして俺はリンに嫌われているのかもしれない。


リンは『報復』に行って、まだ戻ってこない。
もう夜も遅い。
 時計の針が十二時を回っても戻ってこない。
 心配になって読んでいた本に栞を挟んだ。
いつもなら眠いと言いながら帰ってくる頃だ。
 俺は迎えに行く事にした。


 俺の気配に気づいたのか、リンとトモユキは獲物を構えた。
 赤いスティレットはリンに似合うと思うが、あまり持ち歩いて欲しくない。
もっと言えば報復にも参加して欲しくない。
けどそう言うとリンは決まってへそを曲げる。
そんなところは年相応で可愛いと思う。
……俺より一つ下なだけだけど。
 二人は警戒してその場を動かない。
 俺はビルの陰から出た。
リンは虚をつかれた顔をしている。
 「遅いから迎えに来た」
トモユキが不快そうに俺につっかかってくる。
 短気なトモユキとは衝突する事も多いが、仲が悪いという事ではない。
リンが窘めると舌打ちしつつ黙った。
 「遅かったな。また徹底的にやってきたのか?」
 「今日はあいつらが粘ったんだよ。それより、なんでカズイは報復に参加しないんだ?お前強いのに」
 俺が理由を説明しても納得できないらしい。
 元々理不尽な暴力は好きではない。
でもリンがいるからペスカ・コシカにいる。
その事を伝えたらどんな反応をするのだろう。
 試しに言ってみたい気もするが、やめておいた方がいいだろう。
 報復から帰ったときのリンはいつもより血が上りやすい。
 「……何だよ?」
 「いや。もう遅いから早く寝よう」
 無意識のうちに笑っていた。


 部屋のベッドに身体を横たえ、俺は電気を消した。
 「おやすみ、リン」
ここの壁は厚いから声が聞こえる事はない。
あくまで気持ちだ。
 暗い室内で俺は考える。
いつからリンは偽りの仮面を被るようになったのだろう。
ペスカ・コシカの仲間の前でも、リンは表情を作っているように見える。
 何かあったのかもしれない。
 家族の事もリンは語ろうとしない。
それはチームの仲間達も同じ事だし、俺も言わないけれど。
 明日にでも訊いてみようか。
 俺はいつの間にか眠りに落ちた。


その翌日、俺はリンと二人きりになった。
 「リン、お前はいつから――」
 「ごめんカズイ。今日は用事があって。戻ってから聞く」
リンが俺の話を遮るなんて珍しい。
いつもなら素直に聞くのに。
それにこころなしか嬉しそうに見える。
 「解った」


それから数時間後。
 黒を纏った謎の男が溜まり場を襲ってきた。
 相手はたったの一人だというのに、手も足も出ない。
 男は日本刀で仲間を次々と斬った。
 完全にこの世界のプロだ。
 血の海の中で佇む男の紅い瞳に俺の姿が映った時、俺はリンの心からの笑顔が見たいと強く思った。

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 2013年 1月16日 荘野りず

 カズイ視点カズリン。
リンは『用事があって出かけてた』そうなので、リンを手にかけたくないシキが会う約束でも取り付けてたんじゃないかと。
 過去のことを引きずっているリンを書きたかったため兄貴に登場してもらいました。



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