家族に対する10のお題 シキリンで攻略

3、物の貸し借り


俺の部屋に元気なノックの音が響く。
その音の主は明確で、俺は入っていいぞと言った。


 俺が子供の頃に父が買ってくれた天体望遠鏡。
 俺は『欲しい』なんて一言も強請ってないのに、父は嬉しそうにカウンターでカードを差し出した。
 郵送の手続きまで父がやった。
 当時、俺はまだ十五歳。
 生まれて間もない、と言った方が正しいかもしれない無邪気な弟は、家にそれが届くとご機嫌だった。
 「お兄ちゃん、これで星が良く見えるね!」
 望遠鏡が届いたその日、リンは目を輝かせた。
 母親が違っても一応弟だ。
その日は新品の望遠鏡をリンに貸した。
 最初は戸惑っていたようだが、捜査に慣れると楽しそうに星座を探す。
 「お兄ちゃん、これ凄いよ!遠くの星まで凄く綺麗に見える!」
リンは興奮しながら星の様子を中継する。
 「……俺もお前に何か借りよう」
 望遠鏡に興味はなかったが、ただ貸すだけというのもつまらない。
リンは何か考え込んでから、にっこり笑っていいよと言った。


 「どおぞ!」
リンは自室のドアを勢いよく開けると、俺を招き入れた。
 俺の部屋とは違い、物がごちゃごちゃと節操なく置かれている。
 「お前はもう少し部屋を綺麗にしたほうが良いな」
 肩にぬいぐるみが当たり、眉をひそめる。
 「うん、そうは思ってるんだけど、どれも大事だし」
そう言ってぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
その様は俺とは違って可愛らしい少年だ。
 「よし、じゃあ俺はお前にする」
 髪を撫でながら言うと、リンは大きな瞳を丸くした。
 「え、おれ?」
リンは狼狽した。
 「お前はただ静かにしていればいい」
そう言ってリンをベッドの上に押し倒す。
 俺とリンの間にはぬいぐるみが挟まって形が変形している。
 「……リン」
 青い瞳には嬉しそうでいて、躊躇う様な光が宿っている。
ベッドの上に畳んで置いてあるタオルでリンの視界を奪う。
 「……お兄ちゃん?何これ。取ってよ」
 緊張のためか、頬が赤く上気している。
 唇もいつもより紅い。
 「リン」
 躊躇いもなくそこに自分のそれを合わせて舌を入れる。
 先程まで舐めていたイチゴキャンディーの味がする。
 「甘すぎだな」
 「んっ、おにい、ちゃん……」
 俺がリンの唇から離れると、透明な糸が引いた。
 頬はすっかりのぼせた者の様に真っ赤だ。
タオルを解くと、リンは涙目でシキを見た。
やりすぎたか、そう思って次に何を言われるか覚悟した。
 「お兄ちゃんって凄いキスするんだね!おれドキドキした!」
リンはあっけらかんと笑っている。


その日の夜。
リンはあれからすぐに寝た。
やはりマセているといっても子供は子供だ。
シキが部屋にいるのに眠ってしまったリンを見て、そろそろ自分も寝るかと思った時、机の上にあるデジカメに目を向けた。
ピピ、カシャ。
 「これで本当に貸し借りなしだ」
シキは満足そうにリンの部屋を出て行った。

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 2012年 9月10日 荘野りず

貸し借りしなさそうな兄弟だけどそこは妄想で。
リンは昔から星を見るのが好きだったそうなのでお兄ちゃんから借りるのは望遠鏡。



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