家族に対する10のお題 シキリンで攻略

4、プライバシー侵害です




シキは珍しく仕事の休みを貰った。
 他にいくところもやる事もないので実家に帰ってきた。


シキは玄関のベルを鳴らした。
が、誰も出ない。
いつもならメイド達の媚を売ったような声が聞こえてくるのに。
 仕方がなく、シキはドアの鍵を開けて屋敷の中に入った。


 屋敷の中は閑散としていた。
メイドたちは勿論、リンの母親の姿も見当たらない。
 無論リン自身も。
リンには土産話があるのにと不貞腐れたが、いないのではどうしようもない。
そしてシキはひそかに興味のあったリンの部屋を訪ねようと思った。
 兄弟だし、見られて困るものもあるまい。
だがシキは甘かった。
 「何だこれは……」
 潔癖なシキの部屋とは違い、あらゆるものが無秩序に散乱していた。
ベッドの上もシーツは整えてあるものの、ぬいぐるみがごちゃごちゃと並べられていた。
 「カオスにも程があるぞ……」
シキが呆れていると、やっと帰ってきたのか、ドアの開く音がした。
 「あらシキ君。お帰りなさい。お仕事ご苦労様」
リンの母親だ。
いかにシキといってもこの人は苦手だ。
その小さな背丈から何が飛び出すかわかりはしない。
その後ろにリンがいた。
 小さな母親より更に小さくて、はじめはそこにいるのが解らなかった。
 「あれぇ、おにいちゃん今日お休み?」
 不思議そうに大きな瞳をくりくりさせている。
 「ああ。今日は休みだ」
シキが力なく言うと、リンはシキの現在地を見て言った。
 「あーおにいちゃん、ぼくの部屋に入ってる!こういうのって」
えーっと、えーっと、と繰り返し、閃いたかのように言った。
 「そうだ、プライバシー侵害だ!」
まだちいさなリンの口からプライバシーなんて言葉が飛び出すのがおかしくて、シキは笑ってしまった。
 「あーおにいちゃん笑ったなー」
ポカポカとリンがシキを殴った。
 殴ると言ってもリンの腕力は大した事がなく、心地よかった。


それから数年後。
シキは完全に独立した。
リンも家を捨てるつもりだ。
チームの仲間と一緒にいるほうが楽しいから。
 「リン……どうしても行くの?」
 母親にそう聞かれて、素直に首を縦に振る。
 「そう、決めたのね。そういえばシキ君もそうだったわ」
 今やライバル視している者の名が出て、リンはかすかに反応する。
――俺の中には兄貴が残っちまってるんだな。
リンは自嘲して、机のフォトフレームを伏せた。


それから更に数ヵ月後、リンはかって憧れていた兄と命の取り合いをする事になる。

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 2012年 月日 荘野りず

前に書いた『誰もいない家の中』と微妙にリンクしてます。
シキリン兄弟はトシマ時代が愛憎溢れていると思います。
シキとリンの年齢差は十歳くらいが好みです。



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