家族に対する10のお題 シキリンで攻略

5、「小さい頃は可愛かったのに」


あいつはいつも俺を追ってくる。
 俺を倒せなどしないくせに。
あいつはうっとおしい猫のようだ。


 俺が初めて仕事に行く時、アイツは玄関先で泣き喚いた。
 「おにいちゃん、死なないで」
 涙ぐみながらそんな事を言う弟がいとおしくて、頭を撫でてやった。
 仕事といっても当時は簡単なものだった。
 裏に手を出しすぎたチンピラの始末。
ただそれだけだった。
だが弟の声を思い出すだけで、俺の動きは格段に遅くなった。
 情にほだされていたのだろうと今は思う。


トシマの裏路地でアイツと出くわした。
スティレットを構えて俺に向かってくる。
 俺の日本刀相手にそんなおもちゃのようなスティレットでかなうはずがない。
それでも諦めずに攻撃してくるのだから、その心意気は認めよう。
 「……シキ!あんただけは絶対に――」
その後には「許さない」が続くのだろう。
 俺も簡単に殺されてやるほど人はよくない。
 「待っている。コロシアムで、待っているぞ」
そうリンに囁く。
 俺が王なのはコイツが一番よく知っている。
 精一杯睨みつけてくる顔から手を放すと、ぜえぜえと苦しそうな呼吸の音が聞こえた。
 無理している。
 俺に勝つために自らの命すら犠牲にする覚悟だ。
それほどまでに失った仲間が大切なのだろう。
 昔から一人だった俺。
 昔から群れて行動していたコイツ。
 俺は何も背負っていないが、コイツは違う。
 仲間という重荷を背負って生きている。
それはさぞ心地のいい重みだろうと夢想する。
しかし覚えるのは弟を奪われたという喪失感。
どうやら俺は自分でも気づかないうちに弟を愛していたらしい。


 「おにいちゃん」
――うるさい。
 「おにいちゃん、ぼくおにいちゃんみたいに木刀振ってたんだ」
――黙れ。
 「おにいちゃん、おにいちゃん」
 俺は目を覚ました。
 幼少期のリンの声で起こされた。
あの頃のリンは本当に可愛かった。
 俺にどこまでも着いて来て、俺と同じ事をしたがった。
 多くの子供がそういう傾向にあるにしても、俺はリンが可愛くて仕方がなかった。
 腹違いの、どうしてもちゃんとした兄弟になれないとしても。
 「……小さい頃はあんなに可愛かったのに」
 俺はリンと一緒に撮った写真を取り出した。
 実家から出るときに持ってきたものだ。
 今は裏面をメモとして使っている。
 「リン……お前になら殺されてもいい」
 写真を見ているとらしくもない言葉が飛び出してくる。
リンに襲い掛かられても本気で殺さないのは肉親だからだろう。
その一線を越えたらあの男と同じになってしまう。
どうにかリンを殺さずに、あの男を殺す方法がないか考えてみよう。

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 2012年 10月16日 荘野りず

 シキ視点でのシキリン。
シキとリンは十歳差というマイ設定。
シキ三十路説を強く支持します!



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