無分類30のお題 →TYPE2

23、カーテン(アキリン)


  

「あのさ、カーテンが気に入らないんだ」
いきなりリンがそう言い出した。
それも真顔で。
今日は久しぶりに休みで、リンと昨日は久しぶりに楽しんで、自然と寝入っていた。
それだけバイトで疲れていたのだが、それはお互い様だ。
だが、目覚めて、しかもベッドの中で、互いに裸のままで、いきなりこんな事を言われたら?
……誰だって戸惑うんじゃなかろうか。
俺がそんな事を考えているなどお見通しだったらしく、リンは同じことを繰り返す。
「カーテンが気に入らない」
「……それは今聞いた。だが、なぜ?」
元々、今いる寝室のカーテンはリンが選んだものだ。
それも『一目ぼれ』というヤツで。
だから俺が疑問に思うのも当たり前だと思うのだが、リンは「なぜ察してくれない?」という非難の眼差しで俺を見る。
――俺はお前と違って、『誰かと一緒にいる』のには慣れていないんだよ。
Bl@sterだって、リンはチーム戦参加だが、俺は個人戦のみ。
この時点で互いの違いなどすぐに解る事だと思うが、違うのか?
「……アキラって、相変わらず鈍いよね」
そう言われたのには、確かにそうだという『肯定』の意志しかない。
すぐにそう言った当人から、「まぁ、そこも含めて好きなんだけどね」とフォローが入った。
――リンは変わらないな。
トシマにいた頃から、リンはムードメーカーで、トラブルメーカーでもあった。
そのトラブルも今思えば可愛いモノだが、当時は困った。
五年も前、それだけ未熟だったころだ。
今はこうして、多分真っ当な生き方とやらをしている俺からすれば、五年前の俺自身は『未熟』の一言だ。
「とにかく、俺はこのカーテンが気に入らないの!次の休みでいいから買いに行こう?」
……これがきっと他の連中の言う『惚れた弱み』だ。
「……あぁ。その時にはなんで気に入らないのかも説明してくれるか?」
「うん」
そう告げながら、リンは瞼を擦り「俺はまだ寝てたい」とマイペースな事を言い、実際にそうした。
――しょうのない奴。
そうは思っても、本気で『嫌い』になれないのがリンの魅力だった。


「聞いてないよ!」
「……本気で悪いと思ってる」
次の休日。
の、予定だった日。
安アパートで慌てて仕事の支度をする俺に対して、それまで眠っていたリンは抗議の声を上げた。
カーテンを買い替えに行く日で、リンとの『約束』の日。
あのトシマでも、リンは『信じる』という事に拘っていた。
逆に言えば、リンにとっての『約束』というのは破ってはならない、神聖なモノだ。
だからリンの怒りは尤もだし、俺も自分が悪いわけではないが詫びるしかない。
上司のミスが原因で、俺のような下っ端にも緊急の対処が求められ、出勤する羽目になった。
「悪いと思ってるなら、せめてあのカーテン取り外してよ!」
いつも『男』である事に拘りがちなリンにしてはあまりにも『女々しい』言い分だ。
あまりにもらしくない。
あのシキに左足を失いながらも勝利した者と同一人物とは思えないくらいだ。
「なんで、カーテンなんかにそれだけムキになるんだよ?寝室を隠せればそれでいいだろ?」
「……アキラのバカ!鈍い!」
あの時、トシマの頃はケイスケに普通に女子と間違えられ、その容姿を武器にしていたようでもあった頃ならば『微笑ましい』などと思えたかもしれない。
だが、現在は成長して、俺よりも身長の高く、体格のいい『青年』だ。
そんな人物がこんな駄々をこねる光景など、ただ漠然とおかしいだけだ。
――それに一方的に責められるのもいい気がしない。
今の一言を皮切りに、聞くに堪えない俺の欠点の指摘が容赦なく飛んでくる。
……それはとてもではないが言葉に出来ないくらい酷い。
俺はため息をつき、なぜそこまでこだわるのかを尋ねてみた。
最初はストレートに言おうとしたようだが、どこか恥じているようにも見受けられる。
――それだけの理由なのか?
俺が思わず唾を飲むと、リンの口から出たのは予想だにしない言葉だった。
「だって……カーテンにアキラを取られたと思ったから!」
――……は?
わけがわからない。
一体どういう意味なのかを詳しく問う前に、リンの方から話し始めた。
「いつもアキラはカーテンばっかり見てるし、『いい柄だな』なんて最近よく言うし、俺よりもカーテンが気に入ったのかって……」
「……」
脱力するのも無理はないと思う理由だし、実際俺もそうなりかけた。
しかし。
モノに嫉妬されるほどにあのリンが一番に思うのは俺という事実、も悪くはないと思う。
――最恐チームの元頭でも、そんな事を考えるものなのか。
「……俺も、気に入らなくなったから、今度の休みこそはクビ覚悟で買いに行くか」
俺の言葉に、リンは大きく頷いた。



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2015年 6月8日 莊野りず

『カーテン』でどんな話を作るかは色々と悩んだのですが、リンは群れを作るのが好きとシキに指摘されるほどです。
それだけ寂しがり屋なのかな、とも取れますよね。
だから『死んでいる』と知っていても、『顔が似ている』アキラをほっとけなかったわけですし。
だから敢えて今回は『可愛い』リンのつもりです。




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