無分類30のお題 →TYPE2

11、肩甲骨(ケイスケ→アキラ)




アキラがタグを奪い取ってきた時、ケイスケは自分ではごく自然に言ったつもりだった。
「おめでとう」と。
しかし無関心なようでいて彼は幼馴染だ。
ケイスケの必死な慰めにも似た言葉に反論してきた。
終いには「お前見てるとイライラする!」とまで言われ、ケイスケは思わずホテルを飛び出していた。


「言いすぎだよ!早く追わなきゃ!」
ホテルを飛び出そうとするリンを源泉が止める。
「やめておけ。いくらお前でもこの街の夜の危険さは知ってるだろ?」
「でも……じゃあ、ケイスケはどうなるんだよ?アキラはケイスケのダチじゃないのかよ!?」
アキラは多少は後ろめたいものはあったものの、出て行ったのはケイスケの意志だ。
「……ほっとけよ。懲りればすぐに戻ってくる」
そうやって全くケイスケの事を心配しないアキラに、リンと源泉は顔を見合わせた。
「でも……!ケイスケだよ?危ない目に遭ってたらどうするの?」
「トシマの夜はお前が思う以上に危ない」
二人の説得にも全く耳を貸そうとしないアキラ。
リンはしばらく考え込んだ後、黙って外へと出て行った。
「……リン?」
「お前さんがケイスケの事を追わないからだ。代わりに行くってよ」
余計な事を……などと、リンを怨むのは間違っている。
でも自分とケイスケの事は放っておいてほしかった。
「さてと。オイチャンもケイスケを探しにちょいと出てくるか」
「オッサンも?」
源泉はふかしていたタバコを乱暴に揉み消すと、アキラに向き直る。
「いいか?この街では命なんてその辺の空気より軽い。そこんとこを忘れんなよ」
ヒラヒラと片手を振って、源泉もホテルを出て行った。
残されたアキラは少し休むことにした。
思えばろくに休憩などしていなかった。


「アキラ?寝てんの?」
静かなトーンのリンの声に、反射的に起き上る。
「少しな。……帰ってきたって事はケイスケは見つかったのか?」
アキラは先ほどのことを後悔し始めていた。
なぜあんな言い方をしてしまったのだろう。
リンは申し訳なさそうに首を振る。
「……そうか」
同時に少しほっとした。
今のままではまたケイスケを傷つけかねない。
ならばしばらく距離を置いた方が良いのではないか。
「……アキラはさ、ケイスケの事、嫌いじゃないんでしょ?」
リンがぽつりと語りだした。
黙って頷くアキラ。
「確かにアキラの言う通り、俺でもケイスケの煮え切らない態度はイライラするよ?でもそれだけであんな事言ったわけじゃないんでしょ?」
リンは落ち着いた様子でアキラに問いかける。
「ああ、ケイスケの事は嫌いじゃないし、ありがたいって思ってる時もある事はある。けど、あの煮え切らない態度は、昔からなんだ」
「だから余計に腹が立つ?」
リンが茶化すように笑う。
「ああ」
アキラがどんな表情をすればいいのか迷っていると、リンはペットボトルを差し出してきた。
それを黙って受け取る。
「……でもさ、そんなケイスケだからこそ嫌いになれないんじゃないの?」
どこか影のある表情になったリンがそう言った。
「……そうかもな」


「おい、待て」
「離してください!」
やっとの事でケイスケを見つけた源泉は、彼の腕を限界まで力を出して引き留めようとする。
流石は工場勤務なだけあって、ほどよく筋肉がついている。
「どうせアキラは俺なんかどうでもいいんだ!」
「まぁ、落着け。……アキラだって完璧じゃないんだ。いつまでも聖人君子面されてもみろよ?そっちの方が気味悪いだろ?」
源泉は新しいタバコを取り出して百円ライターで火をつける。
こういう場合は相手の気が済むまで話を聴いてやればいい事くらいは、これまで生きてきた経験上知っている。
ケイスケは自分がどれだけ頑張っているのか、どれだけアキラに尽くしてきたのかを涙ながらに語った。
その中には思わず引いてしまいそうなものもあったが、そこは大人の余裕で流す。
腕時計に目をやると、もう深夜二時を回っている。
リンもああ見えて世話焼きが好きなたちだから、そろそろ頃合だろう。
「ケイスケ、ホテルに戻ろう。夜の街は危険だ」


「結局さ、アキラにとってケイスケって、肩甲骨みたいなもんじゃない」
リンがソリドを齧りながらアキラを見る。
「肩甲骨?」
聴いたことがあるが意味はよく知らない単語に、思わず身構える。
「そう。普段はあるのが当たり前で、忘れがちなんだけど、故障して初めて重要だって解る、みたいな?」
「なるほど。それも一理あるかもしれないな」
既にアキラの中のケイスケに対しての苛々は収まっていた。
そこにいつの間にかケイスケと源泉がいた。
気配を全く感じないほどに憑かれていたというのだろうか。
リンは初めから気づいていたらしく、「おかえり〜」などと明るく笑う。
「アキラ……俺、アキラの気持ちなんて考えもしなくて……。でもリンの言うような関係でいたいっていうのは、俺の我儘かな?」
先ほどの事をまだ引きずっていると見える。
普段はうっとおしいところもあるが、憎めないのも事実だ。
「俺は怒ってない。……それでいいだろ?」
アキラの言葉に、ケイスケは安心したように胸を撫で下ろした。






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2015年 3月28日 莊野りず

珍しくケイスケ→アキラです。
肩甲骨って”四肢動物の肩を形成する骨の一つ”とググったら出てきたので、=なくても別に困らないけどあるに越したことはないもの、と定義しました。
リンと源泉を入れたくなるのはいつもの癖です。
みんなでワイワイやってんの楽しそうだし。




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