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14、指切り(アキリン)


  

「……俺の事、待っててくれる?」
不安げなリンの言葉に、アキラは強く頷いた。
信じると決めたのだ、一度決めたことはそう簡単に曲げる気などさらさらない。
「じゃあ、コレ」
リンは右手の薬指をアキラのものと絡めた。
「なんだ?」
孤児院ではこんな事など教わらなかった。
リンはその事に今更思い至ったようで。
「……約束の証だよ。約束を破ったら、針を千本飲まなくちゃいけないんだ」
そう言って、リンは柔らかく笑う。
「だからさ、俺、針千本飲むなんて嫌だから。だから……」
散々したというのに、またリンはアキラと唇を重ねる。
今までした中でも最も長くて、濃密なキス。
舌が絡み合って、喉の奥が苦しくなる。
アキラが離れようとしても離してくれない。
これはリンなりの、別れの惜しみ方なのかもしれない。
そう思うと無理に離れる必要など感じなかった。
「……必ず戻る」
唇を開放したリンは凛とした声でそう言った。
「だから、アキラも指切りげんまんを忘れんなよ?」
アキラの返事を待たずに飛び出したのは、お互いにとって良かったのかもしれない。
リンは振り向けば決意が鈍るだろうし、アキラは泣き出してしまいそうだったからだ。


シキと対峙した時も、アキラの全ての感触を忘れていはいなかった。
緩みそうになる表情を引き締める。
「どうした?何かいい事でもあったか?」
嘲笑するシキには薄々何があったのか見当がついたのかもしれない。
いくら憎んでも、怨んでも、一度は尊敬し、目標とした相手なのだから。
「別に。そんな事より、アンタ、怪我してるよね?」
「それがどうした?お前相手にはちょうどいいハンデだろう?」
リンの腿に目をやりながらシキは嗤う。
――今日で決着をつけるつもりだ、俺も、アンタも。
そう本能が告げた。
実際に今日のシキから受けるプレッシャーはいつもとは大違いだ。
「今日こそ俺は、アンタを殺して自由になる」
そう強い口調で告げて、シキの差し出した日本刀を手に取る。
今まで見たことはあっても、実際に持つのは初めてだ。
普段使用しているスティレットとは当然重さが違う。
二、三回振り回してみるが、細身のリンには不利は否めない。
――この重さは過去と未来の重さだ。
過ぎ去ってしまった大切な時間への未練も、これから先の明るい未来も、この重い日本刀で決まる。
柄の部分を握りしめる。
手汗が止まらないが、既にシキは目の前にいる。
今更引き返せないし、そんなつもりもない。
「……覚悟は出来たか?」
「……ああ」
言葉も少なめに、二人は同時に地面を蹴った。


トモユキがそこを通ったのは偶然だった。
源泉とかいう、名も聞いたことのない中年のオヤジに逃げろと言われて、通りかかっただけ。
トシマに来たのは殺人というBl@sterでは到底味わえないスリルを求めての事。
だから自分が死ぬなんてことはないと過信していた。
しかし仲間が実際に死んでいくにつれて、トモユキは次第に後悔していった。
リンの言葉が何度蘇った事だろう。
――今すぐ仲間を連れて帰れ!
あの言葉は本当に自分たちを心配しての言葉だったのだと、今更になって悟った。
トシマに着いた時は大所帯だったペスカ・コシカの生き残りは、トモユキを含めて五人しかいない。
その仲間たちもすっかりビビり、戦闘を避けている。
トモユキ自身も内心では同じだったが、今となっては頭の役割をするようになっていたので、弱音など吐けなかった。
同時にリンがどれだけ大きなものを背負っていたのか、身を持って実感した。
そのリンが、高速道路で倒れている。
「……おい、あれリンじゃね?」
最初に気づいたのはやはりトモユキだった。
どんなに罵り、責めたとはいえ、かつての大事な仲間だ。
そのリンを自分が見間違えるはずなどない。
「リン?アイツはどっかで死んだんじゃねーの?」
他の仲間が揶揄する。
彼らはペスカ・コシカ全盛期のメンバではない。
だからそんな事が言えるのだ。
トモユキは思わず全速力で走っていた。
久しぶりに見たリンは、全身傷だらけで、虫の息だった。
特に酷いのは左足で、本当に淡いピンクの肉が見えている。
真っ白い棒のようなモノは骨だろうか。
そんな事を考えていると、リンが何かを呟いた。
「……た……」
「おいリン、しっかりしろ!」
トモユキは思わずリンの白い手を握りしめていた。
「……俺、勝った……」
誰に?という疑問はすぐに解決した。
リンのすぐ傍で、黒を纏った男、イグラ参加者に知らないものはいない、目的のわからない覇者の姿を見たからだ。
彼はリンとは違ってピクリとも動かない。
首元から大出血した後が見受けられた。
多分死因は出血多量。
「……おっ、おい、トモユキ。ソイツの事どうするんだよ?」
すっかり怯えた仲間に、トモユキは一喝する。
「元、とはいえリンは俺たちの仲間だ!一緒に連れてくに決まってんだろ!」


リンが目を覚ましたのは病院だった。
それも病的なほど真っ白で清潔な部屋。
「……ここは?」
そう口走ってすぐに左に激痛が走った。
思わずうずくまる。
リンの短い呻き声を聞いたのか、看護師が顔を出す。
「やっとお目覚め?あなた、ずっと眠りっぱなしだったのよ?」
でも目が覚めてよかった、と見知らぬ女性は笑う。
「ここ、どこ?あんたは?」
「ここは日興連の病院。私はナース。貴方は患者。ドゥユーアンダースタン?」
ナースと名乗った彼女は元々明るい性格なのだろう。
その能天気な雰囲気にはどこか安堵する。
「アンダースタン」
リンはそう返した。
左はまだ痛むが、激痛如きで根を上げたくはない。
持ち前の根性で必死に耐える。
「よろしい。突然だけど、貴方の左足ね、切断したから」
まるで天気の話でもするように、彼女は言った。
一瞬驚いたが、確かにあの兄と戦って勝利したのだ。
そのくらいの犠牲は当然、むしろ助かっただけ強運だった。
「……そう。じゃあ俺の左の痛みは幻肢痛、ってやつ?」
「そうなんじゃない?私もその辺はちんぷんかんぷんだし」
やけに能天気すぎるナースだが、下手に気を遣ってくるタイプよりは全然気が楽だ。
「それで、俺が元通りに生活できるようになるまでどのくらいかかる?」
リンは薬指が無事だったことを喜んでいた。
アキラと約束した、大事な指。
一刻も早くアキラに会いたい。
会って、全てにケリをつけたと報告したい。
そして二人で明るい未来を作っていきたい。
「そうねぇ、頑張っても三年はかかるんじゃない?」
三年、その言葉がリンに重たくのしかかる。
もちろん一介のナースの言葉を鵜呑みにするようなリンではない。
ただ、アキラならば例え何年かかろうと待っていてくれるのではないか。
「……三年?上等だ!」
リンはベッドの中でそう言て笑った。


「……アキラ」
その声に、アキラは振り返る。
BL@sterが行われている裏路地。
きっとここにいる、そう確信していた。
「……お前」
どんなに外見が変わろうと、アキラならば必ず見つけてくれる、解ってくれる。
その予感は間違ってはいなかった。
「……久しぶり。覚えていてくれた?」
久しぶりに会うアキラは、いつまで経ってもリンの記憶にあるアキラのままだった。
ただ、少し小さくなった気がするが、単に自分の方が伸びただけだとすぐに思い至る。
「当たり前だろ。五年も待たせやがって。……針を千本飲ませようかと思っていたところだ」
自然に迎えてくれるアキラが嬉しい。
それに、あの約束を忘れていなかったこともリンを喜ばせた。
「……これでも俺、兄貴に勝ったんだよ?そんな無茶ぶりはやめろよ」
そう言って、笑う。
アキラも微笑む。
互いに自然に薬指を出して、絡ませる。
「……今度はどんな約束をする気?」
「決まってるだろ?お互い他の奴なんか見ない」
二人の未来への約束を薬指に託す。
――針千本、嘘ついたら針千本、飲ーます、指切った!






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2015年 4月7日 莊野りず

アキリンオンリーのつもりが、なぜかトモユキも出張っていたでござる(笑)。
エンディング改変は何度目だよ!って感じですが、vsシキ〜再会の流れはどうしても色々なパターンが書きたくなるんです。
雄々しいリンが書きたくて書いた分、少々アキラが女々しい気もするけど、原作のリンルートでも泣いてたし、まあいいいか。


 



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