無分類30のお題 →TYPE2

25、ベルト(リン)


  

それはただの純粋な疑問だった。
他意は全くないし、もちろん悪意など一切ない。
それはある日のケイスケの一言だった。


ホテルで偶然リンを発見したアキラとケイスケは、水を飲みながらソリドに噛りつくリンに手を振った。
ちょうど向こうもこちらに気づいたらしく、ソリドを食べる手を止めて同じく手を振る。
二人がリンに近づくと、彼の目の前のテーブルには焼き肉味ソリドの包みが散乱していた。
とてもではないが、細身のリンの胃袋に収まる量ではない。
「……どうしたの、これ?」
ケイスケがおずおずと尋ねる。
リンはあっけらかんと笑った。
「あ〜これね。腹減ってたから、やけ食い?ってやつかな」
リンは全くいつもの通りに笑う。
しかしソリドの包み紙の量は、とてもではないがリン一人で食べたものの量ではない。
「やけ食いって……こんなに?」
「俺も成長期だからさ〜、今のうちに食べておかないと身長伸びないじゃん?」
流石に大きくなってもこの身長はちょっとね、なんて軽口を叩く。
ケイスケは釈然としないが、本人がそう言っているのならそうなのだろう。
無理矢理納得させる。
「そういえば、前から気になってたんだけど、なんでリンはそんなベルトばっかりの服を着てるんだ?」
これには意表を突かれたらしい、リンは一瞬驚いた顔をした。
しかしリンは再び笑った。
それも小馬鹿にするような笑み。
「ツナギなんていうカッコのケイスケには理解できないだろうけど、俺のはファッションだよ。このカッコ、似合ってるでしょ?」
特に上下で見つけた時は即買いだったね、とリンはどこか誇らしげだ。
「そ、そう。……てっきりリンって実はMなんじゃないかって思ってたよ」
「失礼だな!だからモテないんだよ、ケイスケは。ね、アキラ」
アキラはどう返事をしたものかと言いよどむ。
今日のリンは……どこかおかしい。
どこがと具体的に挙げる事は出来ないが、何かがおかしい。
いつもはアキラの腕に絡みついて来るのに、今日はそれもない。
「……じゃあ俺、食事も終わったし休もっかな」
リンは唐突にそう言って二人の前から去っていく。
「……どこかおかしくない?」
ケイスケもアキラと同じ事を思ったのだろう。
だが、当のリンはすでにこの場から消えていた。


アキラとケイスケは案外鋭いのかもしれない。
リンはいつも寝床にしている廃ビルを駆けあがる。
ちょうど今日は満月の日で、淡い光は気分を高揚させる。
いつもの指定席――廃ビルの屋上で、リンはゆっくりと服を脱いでいく。
露わになっていく、白い肌。
まるで高級な陶器のような肌の一部、首筋と両手首にそれはあった。
ケイスケに渡したナイフで切ったキズアト。
今はほぼ服を纏っていないため、それらは淡い月の光に照らされている。
「……」
仲間たちを想って切ったものだった。
そうすれば彼らの元に行ける、そう信じて。
でも不都合な事に毎回悪運に救われた。
そうして残ったのが、このキズアト。
仲間の後を追おうとした、弱さの象徴、逃げの証。
手術でも消せないだろう。
「……参ったね」
リンはそう呟くと、再び服を身にまとった。
ベルトだらけのこの服は上手い具合にキズアトを隠してくれる。
だからずっと着ている。
道ですれ違うトモユキたちも、自分の事を腫れ物に触るように見る。
本当は責めたいはずなのに。
でも一番責めたいのは自分自身だった。
リンは今夜もそんな自己嫌悪を抱いたまま眠りにつく。
どうか、二度と目覚めませんように。
そんな願いは毎朝見事に裏切られる。






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2015年 7月17日 莊野りず

なんかワンパターン化してきたので、変化球を入れてみました。
リンがメンヘラだったら、それはそれでいいんじゃないの?的なノリで。
こう見えて毎回話のネタ考えるのには地味に苦労してるんです。
まあ趣味なのでそれほど苦痛ではないんですが(笑)。
珍しくカプなしでしたが、こんなリンは好きですか?




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