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28、合法ドラッグ(リン+源泉)


  

ライン――その精製方法を知るのはごく一部の者だけだ。
原液を『城』に運んでくるシキすら詳しいことは知らない。
最近ではラインに飽きた若者も増えているという。
ヴィスキオ、もといアルビトロは何か新しい金儲けを考えていた。
そんな彼の膝に狗が頭を乗せた。
アルビトロが哀願してやまない少年、芸術品。
「……これだ!」
突然、アルビトロの脳内で彼の理想郷が鮮やかに描かれた。


源泉がクラブのマスターに新人は来なかったかと尋ねると、スキンヘッドのマスターは首を横に振った。
「……今日も収穫なし、か。マスタービールを頼む」
憂さ晴らしも兼ねて、久しぶりに飲んでやろうと注文した。
「アンタくらいよ、ウチの店でビールなんて頼むオヤジは」
そう呆れた声を出しながら、マスターはジョッキにビールを注ぐ。
それを受け取りながら辺りを見回す。
今日この時間にリンと待ち合わせをしている。
彼は自分の遅刻は見逃せというくせに、相手が遅れると文句を垂れるのだ。
最近の子供は扱いが難しくて困る、とぼやきながらクラブの伝言板に目をやる。
もしかしたらリンに急用が出来たのかもしれない。
しかしそこで目にしたのはとんでもないものだった。
「『ヴィスキオの新商品・パフィ』……なんだこれ?」
そこへちょうどリンがやって来た。
彼は厚底ブーツの底を乱暴に鳴らして、源泉の元に早足で近寄る。
「おっまたせー!待った?」
呑気に手を振りながらの登場だ。
見れば待っているのは一目瞭然なのに、わざわざそんな事を訊く。
「ああ、待った。……それよりコレ、知ってるか?」
源泉は例のヴィスキオのポスターを指差した。
情報屋の自分も今知ったのだから当然リンも知らないと思っていた。
「ああ、パフィね。今凄い流行ってるよ。俺も持ってるし」
「何?お前知ってるのか?」
軽く衝撃を受けていると、リンがマスターにカクテルを注文している所だった。
「……なんでもあのアルビトロも愛用してる、よく効く媚薬だってさ」
「媚薬!?……アイツ、何考えてんだ?」
リンがマスターからカクテルを受け取ると、源泉の隣に腰掛けた。
「ラインが売れないからじゃん?アルビトロって変態だけど、金儲けは上手いし」
カクテルでのどを潤したリンは何でもないことのように言った。
成分はどうなっているのだろう?
使用した者に悪影響はないのか?
レートはどのくらいなのか?
そんな疑問が次々に湧いては消える。
そうやって思い悩む源泉にリンが楽しそうに笑って言った。
「じゃあ試してみない?」
「なぬ?」
リンは言うが早いがカクテルを一気に飲み干した。
そして源泉の手を引っ張ろうとする。
びくとも動かない源泉を怪訝に思ったらしい。
「どうしたの?試したいんじゃないの?」
リンはそう尋ねるが、源泉は彼に危険な目に遭ってほしくない。
源泉のそんな態度にカチンと来たのか、リンは中指を立てて挑発した。
「……もしかして、オッサンのって小さいの?短いの?それとも早漏?遅漏?」
挑発だと解っている。
しかしそんなレッテルを張られるのはご免だ。
「……後悔するなよ?」
源泉は重苦しく言ったつもりだが、ますますリンをその気にさせてしまった。
「上等!」


パフィは粉薬だった。
源泉が金を支払い、ボロいながらも個室は確保した。
「じゃ、ヤりますか」
リンは躊躇いなくその粉薬を水で飲んだ。
源泉は今更になって心配になってきた。
でもリンは服を脱いだだけで、あまり変化は見られない。
十分ほどした頃だろうか、リンの青い瞳が扇情的に揺れ出したのは。
「オッサン……効いてきたみたい」
うるんだ瞳が源泉の劣情をそそった。
思わずサスペンダーを外し、シャツを脱いだ。
リンは後ろを自分で解していたが、あれっという顔をした。
「どうした?まさか危険な副作用でも――」
「いや、やけにすんなり入るなって。いつもはこうじゃないのに」
暗にどこかの誰かとは関係を持っていることを窺わせたが、そこは無視することにした。
十代は色々と大変なのだ。
気分が昂っているらしいリンを見ているとこちらもムラムラしてくる。
源泉はリンをボロいベッドに押し倒した。


「ね、ドラッグとはいえ合法なんだから」
行為を終えた後、リンは素早く身支度を整えた。
源泉は釈然としないながらもリンの誘いに乗ってしまった事を少し後悔した。
いくら合意の上だからって、まさか自分が未成年に手を出すとは。
我ながら情けない。
「俺、これから行くとこあるから。じゃね!」
セックスという体力を消耗する事を終えたばかりだというのに、リンは元気だ。
「若いっていいねぇ」
源泉は一人残された部屋の中でタバコに火をつけた。


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2015年 8月2日 莊野りず

『合法ドラッグ』っていうとラインしか思い浮かばなかったので、新しく捏造してみました。
もちろん本編には出てきませんよ、パフィなんてセンスの欠片もない薬品は。
珍しくアキラたちが出てきませんが、ほんの少しクラブのマスターが出張ってますのでそれで埋め合わせという事で(笑)。




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