無分類30のお題 →TYPE2

9、水


  

イグラを効率よく終了させるには、絵タグが一番。
しかし生活の基礎となる水と食料を得るためには、ブタタグもまた必要不可欠なのだ。
アキラとケイスケはその事を嫌というほどに身を持って思い知っていた。


ケイスケはイグラ参加を決めた。
おかげでレアな絵タグが一枚、手に入った。
しかし彼のイグラ参加のメリットはそれでおしまい。
何しろ人を殴る事も出来ないのがケイスケであり、それをずっと見てきたからこそアキラは止めたのだ。
今日もアキラは一度だけイグラをこなしたが、絵タグなし、ブタタグが三枚という悲惨な結果に終わった。
「……もうダメだよ。水が飲みたい!水、水、水……」
緊張のし通しだったせいか、ケイスケは喉が渇いて仕方がないらしい。
そう言われてみれば、アキラ自身も喉が水を欲していた。
「……確かに喉が渇いたな。水が確保できるところにでも……」
「あれー!?アキラアとケイスケじゃん!何してんのさ、こんなトコで?」
今は会いたくない人物、ご登場。
リンは思いっきりの笑顔で二人の顔を見た。
「あっれー?何で二人して死にそうになってんの?病気?」
無邪気な声には全く悪意を感じない。
思えば最初に出会った頃からそうだった。
「……実は」


「なぁんだ、喉が渇いてただけかぁ!心配して損したぁ」
リンは体力が落ちた二人を両肩で支え、ホテルまで運んでくれた。
それだけではなく、自分の手持ちのブタタグから水のペットボトルを五本も奢ってくれたのだ。
おかげでアキラもケイスケも体調は元に戻りつつある。
「貰っておいてなんだけどさ、リンは大丈夫なの?こんな一気にブタタグ使っちゃったりして」
一番勢いよくペットボトルを空にしていたケイスケがバツの悪そうに尋ねた。
アキラもその辺を詳しく知っていきたかったから、ケイスケにしては気が利いていると思った。
「大丈夫だってば。言ったでしょ?俺は強いって。それに二人でイグラやってるって言っても、実際はアキラ一人でしょ」
この一言にはケイスケは大分ダメージを食らった。
その通りなので言い返せもしない。
「だから、ブタタグは大事にした方が良いよ〜」
あっけらかんと笑うリンには、この街の者特有の暗さのような者は見受けられない。
「……なんでここまで親切にしてくれるんだ?いくら顔が好みだからって言われても納得できない」
ぺットボトルの水を半分ほど開けたアキラが尋ねると、いきなりリンの顔から笑いが消えた。
「……それはね」
ここで数秒のタメ。
次に口を開いた時にはアキラはリンに唇を奪われていた。
「貸しを大量に作って、身体で返してもらうためだよーん!」
もう一度満面の笑みに戻ったリンは本気のような冗談のような口調で言った。
「はぁ?アキラは渡さないからな!」
ケイスケが吼えても無駄だった。
「じゃあその水、全部返してもらおうかな〜?」
こうしていつもの二人のじゃれ合いに発展していく。
――平和だな。
アキラは離れたところから覚めた目で二人を見ていた。


「カズイ、今日はさ、俺、お前にそっくりな奴に水を飲ませてやれたんだ」
今でも蘇る、あの悪夢のような光景。
中心で倒れていたのはカズイだった。
死に際の彼の唇は乾ききっていて、せめて水だけでも飲ませてやりたかった。
しかし飲料水などアスファルトのフィールドにはない。
どれだけ後悔しただろう。
だからもう二度と、こんな想いはご免だった。
「……アイツらさ、悪い奴じゃないと思うんだ。だからさ、カズイ」
――俺の事を見守っていてくれる?




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2015年 3月8日 莊野りず

お題は良いんですが、毎回ネタに困る病です。
今回はリンを中心にした二つの水をテーマ(なんて大げさなもんじゃないけど)にしてみました。
片方は生きている方、片方は死んでいる方。
描写自体は少ないですが、リン→カズイです。




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