悲恋系15のお題 レイジナ・アベレア中心で攻略

7、痛み(アベレア)


「わたしの命、キミにあげるね……」
インセストの少女はそう言い残して息絶えた。
 彼女はアベルの腕の中で短い生涯を終えた。
……また一人、死んでしまった。
レアからはアベルの表情は窺えない。
でもきっと悲しい顔をしているのだと思った。
ちくりと胸が傷んだ。


 「まぁた死体が増えたか」
いつからいたのか、アラギがおかしそうな声を出した。
 彼の指にはパスカのペインリングが光っている。
 「なんだ。お前か」
アベルは不機嫌そうに言った。
インセストの少女の顔には安らかな表情が浮かんでいる。
 「お前でも悲しむことなんてあんのか?この化け物が!」
 「……っ」
 「やめて下さい、アラギ様」
レアの声がアラギを制す。 「アベル様は人間です。貴方とは違います」
ぴしゃりと言い放つが、アラギはますますおかしそうだ。
 「へぇ。言うようになったじゃねーか」
アラギはレアの顎に手を添えた。
 「さらって来た時はもっと可愛かったのになぁ」
レアはアラギを睨む。
 目を合わせたアラギはばつが悪そうに手を放す。
 「……面白くねーの」
そう言って幽葬の地下通路の奥へと消えた。


 少女の遺体をこのまま放っておくわけにもいかないので、いったん地上に出た。
 「……」
 「……」
 二人は無言で穴を掘る。
ちょうど彼女を埋葬するのにちょうどいいくらいの穴を掘ったところで一息ついた。
 玉のような汗が流れた。
 「……気にすることはありません。彼女は自分の意思で命を貴方に与えたのです」
 「……」
レアが淡々と言葉を口にしてもアベルは応えない。
 「わたしもきっと最期まで貴方と共にいるでしょう」
 自分の最期を色々と想像してみても、アベルの傍以外で死ぬことは想像できない。
アベルと共にあることが自分の幸せ。
それ以上は望まない。
 「……なぜ?」
 「アベル様?」
アベルは苛々しているようだ。
 「なぜお前は……お前たちはそうなんだ!なぜ自分の不幸を呪わない?なぜ黙って死ねる?なぜだ?」
br こうやって激昂するところを見せてくれるようになったのは嬉しい。
レアは微笑んだ。
 「だってわたしはインセスト。そう生まれてしまったのは仕方があるません。それに最期の場所を選べることは案外幸せなものですよ」
 「でも!」
 「アベル様の痛みに触れる事はインセストでなければできない事です。……わたしはインセストでよかった」
 恍惚とした表情で語るレア。
 彼女にはそういう幸せがあるらしい。
 「今の貴方は痛みで一杯なんですね。わたしにも感じさせてください」
アベルははっとする。
 「やめろ!共苦するな」
 次の瞬間、レアはよろめく。 「……ほら。やはり貴方は人間です。彼女が死んだことで、こんなにも痛んでいる」
 脂汗を顔ににじませながら、レアはまた微笑む。
 「レア、もういい。やめろ」
 「ふふ……。そんな顔しないでください。まだわたしは死にませんから」
アベルはだんだん自分が楽になっていくのを感じた。


 「ぼくは……死ぬんだね?」
まだ幼い少年は不安そうに訊く。
レアはゆっくりと頷く。
 「そっか。まだやりたい事はあったんだけどな……」
 「大丈夫です。怖くありませんよ」
 少年は目を閉じる。
 「お姉ちゃんが言うなら、きっと大丈夫なんだろうね」
 声に力がなくなってゆく。
 「……亡くなりました」
 「……そうか」
アベルの中にはエネルギーが満ちている。
 少年の最期の命がアベルの中で息づいている。
 「また心が痛んでますね」
 「やめろと言っても共苦するんだな」
アベルの痛みはレアの痛みでもある。
それが凄く嬉しく感じられる。
 「……わたしの時も悲しんでくれますか?」
その質問にはアベルは答えなかった。
 ______________________________
 2013年 7月23日 莊野りず

 レアの胸の痛みとアベルの心の痛み、二つの痛みにかけてみました。
ちょっとレアがMっぽくなってしまった。
インセストは十人くらいはいたんじゃないかと思います。
キロタもインセストだし、男の子のインセストもいるだろうとラストの少年を入れました。



inserted by FC2 system