悲恋系15のお題 レイジナ・アベレア中心で攻略

8、嘘つき(アベレア)


本当の事を教えてください。
 わたしはあとどれくらい生きられますか? 


 幽葬の地下通路で目が覚めた。
 地下なので今の時間帯が朝かも昼かも夜かも解らない。
 久しぶりにぐっすり寝たと思う。
 最近はアベル様の従者として、色々と忙しかったから。 
「……目が覚めたか?」
 この声はわたしの好きなアベル様の声。 
「はい。わたしはどのくらいの間、寝ていました?今は何時ごろですか?」
 夜行性のアベル様が起きているという事は朝ではないのだろう。
 食事はなくても平気だと言うが、やはり食べてもらいたい。
 夜ならばちゃんとパンを食べないと身体が持たないはず。
 「もうすぐ夜が明ける。よく寝ていたぞ」
 アベル様はどこか寂しそうに笑った。
 出会ったばかりは冷たい印象を受けたが、時間が経つにつれ笑顔を見せてくれるようになった。
 滅多に笑わないけれど。
 「……そうですか。ではわたしは丸一日以上寝ていたんですね」
 予想外だ。
 通りで身体が軽いわけだ。
 「……すまない」 
アベル様は俯いた。
 何の事だか心当たりがないわたしは首をかしげるしかない。 
数秒経って思い当たる。
 「……謝らないでください。わたしが好きでやっている事ですから」
 きっと人間以上に人間らしい自称化け物は苦しんでいる。 
インセストの命を啜らなければ生きていけない自分自身を何よりも嫌悪している。 
「……すまないレア」 
共苦しなくても解っている。 


「新たなインセストを見つけた?本当ですか?」
 アラギ様が帰ってきてそんな事を言った。
 もう教団に捕らわれていたインセスト達はすべて保護したと思っていた。 
その中に漏れがあったそうだ。
 「アベル、早速”保護”しようぜ」
 「……ああ」
 アベル様は覇気がない。
 いつもはあんなに強気なのに。
 「行ってらっしゃいませ」
 わたしが見送ると名残惜しそうにこちらを振り返った。
 その表情はまるで親に見捨てられた幼い子供のようだった。


 「っつ」
 アベル様とアラギ様が出かけて、わたしは夕食の準備をしようとして痛みに襲われた。 
「ごほっ!」
 慌てて口を押さえると真っ赤な血が手にこびりつく。
 「……とうとうわたしもですか」
 我ながら冷静なものだ。
 もうすぐわたしは死ぬ。 
アベル様の従者として命を与え続けたこの身体は、アベル様に命を与える代わりにわたしの命を蝕む。 
初めから解っていたこと。
 何も後悔はしない。
 ……でもアベル様は?
 わたしの死を優しい彼は悔やむだろう。 
自らを追い込んで。 
わたしは血が渇いた手のひらを見つめた。


 夕方になり、アベル様達は帰ってきた。
 「お帰りなさい、アベル様」 
「アラギの話はデマだった。アイツ余計な事させやがって」 
インセストはもうわたししか残っていない。
 いつまで一緒にいられるか解らない。 
だからわたしはアベル様に誓う。
 「わたしは最後まで貴方のお傍にいます」
 手のひらの血は拭き取った。 
さぞかし今のわたしは顔色が悪いだろう。 
最終的に嘘つきと罵られても、アベル様の傍にいたい。 
「お前の好きにしろ」
 アベル様は少し照れたようにそう吐き捨てた。 

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 2013年 8月11日 莊野りず
 インセストの少女が亡くなるシーンが本編にもあったので、ちょっと体調悪い様子を入れてみました。 
最終的にレアが嘘つきになるかは皆様の判断にお任せします。
 レアも無茶してると思うんですよね。
カルヒン族の村でも倒れてたし。 



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